内閣府 知的財産戦略本部より募集のありました「「知的財産推進計画 2025」の策定に向けた意見募集」に対して、NAFCAより提出したパブリックコメントを公開します。
意見募集要領などはこちらから
「知的財産推進計画2025」の策定に向けた意見募集
目次
A.知的財産の創造
(A2) 知財・無形資産への投資による価値創造
(A3) AI と知的財産権
B.知的財産の保護
(B2) 海賊版・模倣品対策の強化
C.知的財産の活用
(C3) デジタルアーカイブ社会の実現とデータ流通・利活用環境の整備
D.高度知財人材の戦略的な育成・活躍
(D2) コンテンツ開発や利活用における人材育成
(D3) 知財活用を支える人材基盤の強化
E.新たなクールジャパン戦略・コンテンツ戦略
(E1) 新たなクールジャパン戦略
(E2) デジタル時代のコンテンツ戦略
A.知的財産の創造
(A2) 知財・無形資産への投資による価値創造
<サステナビリティを取り巻く現状>
日本政府がコンテンツ産業を基幹産業とする方針なのであれば、コンテンツ業界に蔓延する「やりがい搾取による価値創造」の現状を改革してほしいと切に願います。
知財推進計画の一環としてクリエイターへの分配率を強化し、コンテンツ業界の包括的成長を支援することこそ、長期的にはコンテンツ立国への近道であると確信しています。
(A3) AI と知的財産権
「知的財産推進計画2024」本文 15 頁に
【知的財産権の侵害リスクとして指摘されるものは、声や労力の保護等、必ずしも知的財産法のルールのみでは解決できない点も複合的に関わる。そのようなリスク等への対応策については、AI ガバナンスの取組との連動が必要であり、生成 AI に関わる幅広い関係者が、法・技術・契約の各手段を適切に組み合わせながら連携して機動的に取り組むことが必要である。】
との文言が入ったことを歓迎いたします。
AI と知的財産権については、前回の「「知的財産推進計画 2024」の策定に向けた意見」をはじめ、NAFCA としても度々パブリックコメントを提出しています。
重複する部分も多くありますが、以下、再び提出いたします。
世界最大のアニメ生産国である日本は、アニメ作品の絵や映像、声優の声などが無断で生成AI の学習元にされることで、経済的にも風評などの面でも多大なダメージを受けます。
著作権 30 条の 4 の目指した理念は、結果的に、あるべき国の知財戦略と逆の方向を向いているのではないでしょうか。
下記 6 点について、あらためてご留意ください。
(1)声優等の声が素材として扱われ、特定のキャラクターや声優等を想起させるボイスチェンジャー等として使用、あるいは販売されている事例が散見されます。これは著作権やパブリシティ権の侵害にとどまらず、名誉毀損にもなり得る由々しき事態であると考えます。
(2)生成 AI の出現によりキャラクターの風貌や声が本物と酷似した模倣品を瞬時に大量に生成することができ、またそれらにどのようなことをさせることも、あるいは言わせることも容易に実現可能となりました。
最高裁判決では「物のパブリシティ権」は否定されているものの、生成 AI が隆盛している現代において、再度「キャラクター」のパブリシティ権について考えることが必要ではないでしょうか。
(3)従来の著作権法では画風や作風等は保護対象とはされないものの、集中的に追加学習させることにより特定の画風や作風等を再現し、模造品を短期間で多数生成する行為等に対しては、従来の著作権法の範囲に止まらない新たな「生成 AI 法」とも言える議論を開始する必要があると考えます。
(4)生成 AI の利用有無に関わらず著作権に抵触する事例が散見される昨今、著作権についての幅広く手厚い啓発が急務であると考えます。
(5)上記の事項を検討する政府の会議等には著作権者や実演家を招聘し、法律家や開発者と同列で意見聴取を行った上、議論にも参加させるべきであると強く考えます。
(6)生成 AI による安易な翻訳の氾濫が、文化的・政治的なリスクになることを強く懸念しています。知財コンテンツの輸出を増やすためにも、優れた翻訳家の養成が急務でしょう。
参考
●パブリックコメント「AI 時代における知的財産権」
https://nafca.jp/public-comment01/
●パブリックコメント「AI と著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見」
https://nafca.jp/public-comment04/
●パブリックコメント「「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)」について」
https://nafca.jp/public-comment07/
B.知的財産の保護
(B2) 海賊版・模倣品対策の強化
A3でも触れましたが、安易な AI 翻訳は日本産コンテンツの海外での評価を下げることにも直結します。アニメなどの作品世界における翻訳は、その作品の価値を大きく左右し得る重要な要素です。にもかかわらず機械的な翻訳で「意味が取れればいい」としてしまっては、作品の世界観を崩すだけでなく、作品や脚本家等のブランド及び人格権を毀損することにもつながります。翻訳を「意味を伝えるもの」と捉えるのではなく、作品にとって非常に重要な要素であると捉えていただきたいと考えます。
従来の海賊版対策だけでなく、誤った翻訳によるコンテンツが流通した場合の対処法、広報戦略も含めた支援を検討していただきたければと存じます。
C.知的財産の活用
(C3) デジタルアーカイブ社会の実現とデータ流通・利活用環境の整備
「ジャパンサーチでアニメを検索すると 20 万件以上が見つかるのに、動画は 200 件に満たない数しか視聴できない」といった問い合わせが海外から数件ありました。
ジャパンサーチをはじめとするアーカイブについても、アニメ業界全体と意見交換の機会を持っていただきたく存じます。
私たち NAFCA としては、今後推進されるアニメのデジタルアーカイブは、現役のアニメクリエイターや専門学生、美大生など、アニメ業界での活躍を願う人々にとっての学びの対象として使いやすいものであるべきと考えます。
D.高度知財人材の戦略的な育成・活躍
(D2) コンテンツ開発や利活用における人材育成
「知的財産推進計画2024」本文81頁に
【コンテンツ産業を支える人材の強化のため、他の国・地域との比較においても遜色ない制作環境や、能力ある者にとって魅力ある就労環境を整備することも必要である。その際、国際水準ベースのデジタル化・DX 化の推進のほか、慢性的な長時間労働の是正やコンプライアンスの徹底を進めていく必要があることは、論を待たない。】
との文言が入ったことを歓迎いたします。
ただし、コンテンツ産業の中でも各業界における特有の事情を加味した進め方が必要だと考えています。アニメ業界の場合には一言に「デジタル化・DX 化」と言っても、現状のまま作画を全てデジタル上で行うことが必ずしも最善とは限りません。各クリエイターの生産性向上の観点から、スキャン技術の向上やアニメ業界に特化した国有のソフト開発が待たれているため、その開発及び普及の後押しもぜひご検討ください。
その一方で、アニメ制作でこれまで課題であった全体の作業量把握について、数値化・DX化が業界内複数の会社で模索中です。こういった動きもぜひ注視し、後押しいただきたいと考えています。
また、人材育成については、一部の優秀なクリエイターを重点的に支援するのではなく、業界全体の裾野を広げることによってこそ、突出したクリエイターが生まれる下地が出来るということを、どうかご一考ください。
(D3) 知財活用を支える人材基盤の強化
日本政府がコンテンツ産業を基幹産業として育て、コンテンツ立国を目指すのであれば、基本的な著作権の基礎やネットリテラシーについて、国民的な理解が必要であると考えます。
つきましては、義務教育及び高等教育を通した著作権の啓発を含めた検討をお願いします。
E.新たなクールジャパン戦略・コンテンツ戦略
(E1) 新たなクールジャパン戦略
クールジャパンのリブートについては、先日パブリックコメントを提出いたしました。
ぜひ、知的財産推進の観点からも、現場の声としてご一読いただきたいです。
私たちNAFCAは、政府のクールジャパン戦略によって、アニメ業界が持続可能な産業となることを心より願い、微力ながら取り組みに協力していきたいと考えています。
●パブリックコメント「新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見」
https://nafca.jp/public-comment03/
(E2) デジタル時代のコンテンツ戦略
巨大プラットフォーマーとの交渉については、その委託を受けて制作するアニメスタジオも、著作権(IP)を持ちコンテンツを提供するスタジオも、強力なソフトである日本のコンテンツの強みを生かした有利な交渉をするには至っていないのが現状であると認識しております。
どうぞ政府を挙げてのご支援をお願いいたします。