公正取引委員会より募集のありました「生成AIを巡る競争」に関する情報・意見の募集について」に対して、NAFCAより提出したパブリックコメントを公開します。
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「生成AIを巡る競争」に関する情報・意見の募集について
目次
1.はじめに
2.アニメ産業における不正行為の具体例
(1)AIカバー
(2)特定の作家の絵柄を出力する生成AIによる違法なイラストなどの販売
(3)消費者利益の損失とアニメ産業の技術水準への悪影響
3.「生成AIをめぐる不正な競争による被害」の救済を!
4.「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」に関する情報・意見
(1)第2の1⑵ データ
(2)第2の2 モデルレイヤー
(3)第4 おわりに(公正取引委員会の今後の対応)
1.はじめに
私たち一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟は、アニメ業界従事者やアニメファンにより構成されている団体です。
日本政府が基幹産業のひとつとして位置付けるコンテンツ産業の一員であるアニメ産業の立場から、パブリックコメントを提出いたします。
各設問に回答する前に、「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー) 概要①」について、意見を申し上げます。
図に潜在的なリスクとして、「著作権侵害、偽・誤情報などが社会を不安定化・混乱させるリスク」「競争政策上の観点からの潜在的リスク等」が挙げられていますが、大きな違和感があります。
それらは現在、既に顕在化したリスクです。
不正競争防止法の定義する不正行為の類型は、以下のように分類されています。
① 周知表示混同惹起行為
② 著名表示冒用行為
③ 形態模倣商品の提供行為
④ 営業秘密の侵害
⑤ 限定提供データの不正取得等
⑥ 技術的制限手段無効化装置等の提供行為
⑦ ドメイン名の不正取得等の行為
⑧ 誤認惹起行為
⑨ 信用毀損行為
⑩ 代理人等の商標冒用行為
そのいずれにおいても、生成AIは明確な脅威となるものです。
また、アニメ産業においては、いままさに公正かつ自由な競争環境を脅かすような形で、上に挙げたあらゆる類型に該当する不正行為が広く行われていると認識しております。
公正かつ自由な競争環境の整備を願う立場から、私たちアニメ業界は、公正取引委員会によって社会正義が実現されることに強く期待いたします。
2.アニメ産業における不正行為の具体例
(1)AIカバー
生成AIの技術を使い、無断で、特定の声優あるいは歌手等の声を学習データとして使用し、その人そっくりの声で様々なことを喋らせたり、歌わせたりする行為を録音したものが「AIカバー」と名付けられ、一般に広く知られています。
各動画再生サイトでも人気ジャンルのひとつとなるほどの流行を見せており、なかには100万回を超える再生数を示すものもあります。
その多くが、生成AIを使用して、無断で作成された動画です。
また、声優等の声を学習させて出力させることを可能としたAIボイスチェンジャー(RVC等)を無断で発売している例も多数あります。
これらの動画やボイスチェンジャー等によって利益を得ている個人あるいは業者も存在するものと見られます。
これらは生成AIであるとの記載の有無に関わらず、「周知な商品等表示の混同惹起」および「著名な商品等表示の冒用」「信用毀損行為」等に該当すると考えます。
公正取引委員会による実態調査を求めます。
(2)特定の作家の絵柄を出力する生成AIによる違法なイラストなどの販売
イラスト等においては、特定の作家の絵柄を出力する目的の追加学習が行われ、文化庁による見解を参照にしても違法と言えるようなイラストが販売されています。
アニメーターが心血を注いで生み出したキャラクターも、生成AIによって衣服を脱がされたり、性的な行為を行っているイラストも販売されています。
これらも同様に、「周知な商品等表示の混同惹起」および「著名な商品等表示の冒用」「信用毀損行為」等に該当すると考えます。
(3)消費者利益の損失とアニメ産業の技術水準への悪影響
消費者側の視点から見ても、今後生成AIによる出力物が市場に溢れた場合には、意図せずにAI生成物を購入することも十分にあり得ます。
新しい表現や新しい創作物と出会ったとき、インターネット上で検索して見つかる画像が、人の手によるものかそうでないものか分からないということは、購入者にとっても大きなリスクであると言えます。
イラストやアニメーションは、作風・画風だけでなく、画面の構図やコンテキストなど、あらゆるものが複合的・有機的に折り重なって一つの作品を形作っています。
生成AIによって、アニメやイラストの作風が「再現」された場合には、このコンテキストが伴いません。
生成AIの出力する、いわば「劣化コピー」によって、作品が「陳腐なもの」と認識されれば、そのオリジナルのブランドを著しく毀損します。
先述した「声優等の声」も、本来は演技などのコンテキストを伴うものであり、俗に「AIカバー」と呼ばれる「劣化コピー」が流通すれば、その価値が毀損されます。
合法か違法かを問わず、生成AIによる日本のコンテンツの粗悪な劣化コピーが流通することは、日本国民の「文化を鑑賞する力」の衰えにも直結すると言って過言ではないと考えます。
3.「生成AIをめぐる不正な競争による被害」の救済を!
これまで述べてきたことから、アニメに関わる特定の声や画風を出力したAI生成物は、わが国の基幹産業であるコンテンツ産業の正当な競争を妨げていると考えられます。
今回公表されている「ディスカッションペーパー」では、主に開発を進めるにあたってのボトルネックが取り上げられていますが、開発の要である学習データの扱い方について、より公正な取り扱いを望みます。
いわゆる「ファインチューニング」だけでなく、そもそもの基盤学習行為においても、生成AIによる「作品」を出力する目的で使われる場合には、「他人の商品形態を模倣した商品の提供」であることが周知徹底されるべきです。
また、機械学習されることを想定していない状態の著作物等や、「データ学習禁止」の旨を記載している著作物等、さらに特定会員のみが閲覧できる状態の著作物等を無断で学習することは、「限定提供データの不正取得等」に該当し得る行為であると考えます。
クリエイター達の作品が無断でそのまま生成AIの学習に使われてしまう状況は、クリエイターの士気低下に繋がり、コンテンツ産業を基幹産業と位置付ける我が国にとっても大きなマイナスとなることを強く懸念します。
学習データの多くは個人に帰属するものかもしれませんが、商業規模の大小に関わらず、生成AIをめぐる不正な競争による被害の救済と、強力な防止策の制定を望みます。
繰り返しになりますが、生成AIによる「著作権侵害、偽・誤情報などが社会を不安定化・混乱させるリスク」「競争政策上の観点からの潜在的リスク等」は、すでに顕在化したリスクです。
AI生成物には、見ただけで生成AIであるとわかる表示(電子透かしなど)を義務付けることが必要ではないでしょうか。
4.「生成AIを巡る競争(ディスカッションペーパー)」に関する情報・意見
(1)第2の1⑵ データ
[設問]
1.第2の1⑵に関して事実関係など更なる補足はありますか。
≪回答≫
「4.(2)①」に記載があるように、学習データを巡っては著作権者等との衝突が起こっています。
衝突を回避するためには、公正なルールが必要です。
「著作物等を学習データとして使用する際には、著作権者等の許諾を得てから行う」というガイドラインが定められるべきではないでしょうか。
一方で、そのようなガイドラインが制定されれば、学習データを収集できるのは、大手プラットフォーマーや資金力のある大手企業に偏在していく傾向はあるかもしれません。
しかし、それを競争の不公正と考えて、学習データとなる著作物を無償で学習させるのは本末転倒です。
著作権者の利益を無視して作られた環境は、正当な競争環境ではないはずです。
(2)第2の2 モデルレイヤー
[設問]
4.生成AIモデル開発における公正かつ自由な競争を維持・促進していく上で、課題は何ですか。
≪回答≫
現在の生成AIが持っているマイナスのイメージの払拭に尽きると考えます。
クリエイター全員が「反AI」というわけではありません。
権利者等が納得できる、クリーンなモデルの制作を求めているのです。
無差別にクローリングしたデータを元に作られている生成AIは、権利者等からの反発が強く、商用で使っていくことを、倫理的にも容認しがたいと考えます。
著作者人格権の侵害は、クリエイターの人権の侵害と同義です。
心無いユーザーや無断学習によってついてしまった生成AIへの悪印象を払拭するには、著作権者等が納得できるクリーンなモデルが開発され浸透していくこと、そして旧来の生成AIモデルを規制し、徹底的に駆逐していくことが必須であると考えます。
(3)第4 おわりに(公正取引委員会の今後の対応)
[設問]
1.これまで本ディスカッションペーパーが触れていない事項で、生成AI関連市場(インフラストラクチャー、生成AIモデル、生成AIプロダクト)の現状などについて公正取引委員会として注視すべきことはありますか。
≪回答≫
本パブリックコメント冒頭で記載した通り、生成AI技術によって生じている、コンテンツ産業の公正かつ自由な競争環境を脅かす不正行為は多岐に渡ります。
声や肖像、作風や画風を再現した生成AIは、コンテンツ産業に従事するクリエイター達のブランドを容易に毀損することができます。
類似品を安価に大量に作れるという生成AIの特性による市場の破壊(ダンピング)行為は大きな脅威です。
消費者がオリジナルと類似品を混同する可能性があり、世界中で愛されるクールジャパンの類似品=偽物が、世界規模で流通する可能性があり、実際に現実化されつつあります。
クリエイターとの関連においては学習データの扱いが注目されがちですが、AI生成物が市場に溢れることによる影響は多岐にわたります。
ぜひ、公正取引委員会として注視していただきたいと考えています。
[設問]
2.生成AIに関連市場における独占禁止法・競争政策上の論点について、本ディスカッションペーパーで取り上げた論点以外に考慮すべき論点はありますか。
≪回答≫
本パブリックコメントの冒頭で記載したように、コンテンツ業界にあっては、生成AIの濫用は顕在化したリスクです。
どうかご注目いただき、速やかな被害の救済をお願いいたします。