パブリックコメント「「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)」について」

総務省より募集のありました「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)についての意見募集」に対して、NAFCAより提出したパブリックコメントを公開します。

意見募集対象および要領はこちらから
デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)についての意見募集

目次

はじめに
1.国際的なコンテンツの悪用について
  (1)フェイクニュースへの悪用
  (2)著作権の侵害
  (3)日本文化への誤解がもたらす悪影響
  (4)小括と提言「翻訳の強化の重要性について」
2.SNS上でのコンテンツの不正利用について
  (1)法的な問題点
  (2)倫理的な問題点
  (3)小括と提言「コンテンツの偽情報を防止するためのガイドライン作成を」

はじめに

私たちNAFCAは、アニメ業界の従事者とそのファンによって構成される団体です。
日本政府が基幹産業と位置付けるコンテンツ産業の立場から、デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関するパブリックコメントを提出いたします。

まず、提言でも取り上げられている「生成AIの利用に関する様々な弊害」についての危機感を、私たちも共有しています。
生成AIの利用については、ステークホルダーだけでなく一般利用者も含めたリテラシー向上が急務であり、その根拠となる法制度も早急に整備される必要があると考えます。
また、デバンキングとしてのファクトチェックは必要ですが、現状、生成AIに関してはファクトチェックが追いつかないほどの無法地帯となっています。
日本のコンテンツ産業の積み上げてきた技術や作品が様々な形で悪用されつつある状況について、政府にも対応策の検討を求めます。

デジタル空間、とりわけSNS上では、漫画やアニメ、映画などの印象的なシーンや台詞をスクリーンショットとして使用し、議論やレスバ(レスポンスバトル)に活用する文化が広まっています。そのなかには、吹き出しや字幕を加工して使用されるケースも多々見られます。
このような行為には法的および倫理的な問題点が存在する一方で、表現の自由との兼ね合いがあり、クリエイターの悩みの種となっています。最近では、生成AIの台頭により手軽かつ巧妙なものとして事態を複雑化させています。
また、日本のコンテンツが国際的に広がるなか、海外においても、コンテンツのワンシーンが元の文脈や作者の意図を歪められた形で拡散されるリスクが高まっています。
特に、日本とは価値観が異なる国々で偽・誤情報が拡散することは、コンテンツ産業にとっての大きなリスクとなり得ます。
このような、海外における偽・誤情報の拡散を食い止めるには、世界各国にいる現地の読者やアニメ視聴者自身の協力が必要であると考えます。
正確に翻訳された日本コンテンツを享受する人たちが、その作品の意図を正しく理解することで、偽・誤情報の広がりを防ぐことが可能になるのです。
そのためには、「正確な各国語への翻訳」の推進と、劣悪な翻訳で流通する海賊版の摘発が重要です。
質の高い翻訳者の育成や、クリエイターと翻訳者の連携を支援するプログラムの設立、コンテンツのIPホルダーが「質の高い翻訳」を流通させるインセンティブの確保について、政府の支援を求めます。
正しい翻訳を通じて日本のコンテンツが発信されることで、世界中の読者や視聴者が日本の文化を正しく理解することこそ、諸外国における偽・誤情報の拡散を早期に防止し、文化交流の健全化の促進につながります。

1.国際的なコンテンツの悪用について

日本政府が推進するクールジャパン戦略は、アニメ、漫画、映画など日本のコンテンツを世界に広めることを目的としています。すでに日本のポップカルチャーは国際的に人気を集め、多くの国で日本のコンテンツが広く消費されるようになっています。しかし、こうした状況は認知戦の文脈などで新たな課題を生み出す可能性があります。
日本のコンテンツを悪意ある利用から守るため、政府にも対策を求めます。

(1)フェイクニュースへの悪用

日本のコンテンツが悪用されるケースとして、特定のキャラクターやシーンを悪意ある目的で切り取り、誤ったメッセージを発信することが考えられます。
文脈を無視した引用にとどまらず、絵はそのままに台詞を捏造する、あるいは生成AIなどを使用して音声を含む動画を捏造することも容易に可能となりました。
このようにして作られた偽物のコンテンツが、国際的なプロパガンダや差別の煽動、フェイクニュースの道具として利用される可能性は大いにあるでしょう。
そうした悪用から日本のコンテンツを守るため、政府主導で、国際的な情報収集と協力体制の強化を進めることを求めます。

(2)著作権の侵害

日本のコンテンツは世界中のインターネットユーザーがアクセス可能です。
各国のユーザーは無断で著作物を使用し、拡散することも容易です。
日本のコンテンツの海外での成功は、著作権侵害が国際的に広がるリスクとも裏表の関係にあると言えます。
各国の法制度が異なるため、著作権の保護や侵害に対する対策が困難な場合もあります。この点については、引き続きプラットフォーマーへの働きかけの強化を希望します。

(3)日本文化への誤解がもたらす悪影響

日本のコンテンツが世界中で日本文化を広める一方で、異なる文化的背景を持つ国々で誤解されることも少なくありません。
国や地域によっては、コンテンツが元の意図とは異なる文脈で受け取られれば、場合によっては政治的、社会的な混乱を引き起こす要因ともなり得ます。
こうした誤用は、意図的な混乱を引き起こす手段として利用される可能性があります。
このようにコンテンツが意図せず引き起こす可能性のある文化的な誤解に対しても目配りをした「情報流通の健全性確保」を期待いたします。

(4)小括と提言「翻訳の強化の重要性について」

日本のコンテンツは世界中で広く認知され、消費されています。その一方で、悪意を持ったコンテンツの利用について、世界規模で法的および倫理的なリスクが新たに生じています。
日本とは価値観が異なる国々で偽・誤情報が拡散することは、コンテンツ産業にとっての大きなリスクです。
無許可でのコンテンツ使用や悪意ある改竄が、情報操作を引き起こし、日本の国際的な評判に負の影響を与える可能性があります。
同様に、アニメ、漫画、映画において、不正確で質の低い翻訳が流通することは、作品の意図が誤解され、偽情報が拡散するリスクにつながります。
特に生成AIによる自動翻訳が広がる中で、質の低い翻訳が偽情報の拡散を助長する可能性もあります。
こうした誤訳はプロパガンダやフェイクニュースとして利用される可能性もあり、日本の文化的価値や国際的な評判に悪影響を与えるでしょう。

このような海外におけるコンテンツの偽・誤情報の拡散を食い止めるには、世界各国にいる現地の読者やアニメ視聴者の協力が必要であると考えます。
正確に翻訳されたコンテンツを享受する人たちが、その作品の意図を正しく理解して現地の言葉で正確な情報を発信すれば、偽・誤情報の広がりを防ぐことが可能になるからです。
よって、コンテンツが誤用されるリスクを軽減するには、「諸外国における正しい翻訳」の推進が肝要です。
そのためには産官学が一丸となり、「日本コンテンツの正確な翻訳」を推進すること、そして劣悪な翻訳で流通する海賊版を撲滅していくことが重要です。
政府には、質の高い翻訳者の育成や、クリエイターと翻訳者の連携を支援するプログラムの設立、コンテンツのIPホルダーが「質の高い翻訳」を流通させるインセンティブの確保について、支援を求めます。

 

2.SNS上でのコンテンツの不正利用について

デジタル空間、とりわけSNS上では、漫画やアニメ、映画などの印象的なシーンや台詞をスクリーンショットとして使用し、議論やレスバ(レスポンスバトル)に活用する文化が広まっています。
しかし、このような行為には法的および倫理的な問題点が存在し、さらに最近では生成AIの台頭が問題を複雑化させています。

(1)法的な問題点

コンテンツのスクリーンショットを無断で使用し公開することは、著作権法に抵触する可能性があります。
これまで黙認されてきましたが、原作者や権利者の許可を得ずに文脈を無視してコンテンツを引用する行為において、一部、行き過ぎた表現があることに懸念があります。
また、近年は、生成AIがコンテンツをもとに新たな素材を生成する状況が生まれていて、様々な法的問題点をはらんでいます。

(2)倫理的な問題点

文脈を無視したスクリーンショットの利用や生成AIによる二次的コンテンツ作成によって、元の作品の意図や文脈が変更され、クリエイターの著作者人格権や作品の持つメッセージが大きく棄損されるリスクがあります。
こうした行為は、クリエイターの意図や創作活動を軽視するものであり、私たちは特に生成AI技術による権利侵害に対して強い懸念を持っています。

(3)小括と提言「コンテンツの偽情報を防止するためのガイドライン作成を」

デジタル空間上でのコンテンツのスクリーンショット利用や、生成AIによるコンテンツ生成には、著作権をはじめとした権利侵害のリスクだけでなく、偽・誤情報の拡散や悪用といったリスクが存在します。
日本政府は、日本のコンテンツの価値を守り、偽情報の拡散を防ぐためにも、表現の自由を最大限に尊重した形で、こうしたコンテンツの無断使用について一定のガイドライン作成に着手するべきと考えます。