私たち NAFCA は、日本のアニメ産業に従事するクリエイター、スタジオ、研究者、教育関係者を会員に擁し、アニメ産業の持続的発展と文化的基盤の強化に取り組んでおります。今回のパブリックコメントはその立場から意見を送付いたします。
今回公表された「放送・配信コンテンツ産業戦略検討チーム取りまとめ(案)」は、コンテンツ産業の競争力強化という視点からアニメ産業への言及も多く見られ、感謝をしております。
しかしながら、持続可能で公共性の高い文化・産業としての戦略を構築するにはいくつか追記していただきたい点がありますので、以下に記載いたします。
1.人材育成について
本取りまとめ案において、OJT /Off-JTでの訓練についての記載があることを歓迎します。アニメ業界では長らく人手不足、業務過多等の理由により人材育成が置き去りにされてきました。その結果、現在50代、60代であるベテラン層が引退した後に業界を支える中間層が非常に薄くなってしまっています。このままでは産業を伸ばすどころか、維持することも危機的であると言えます。この危機的状況を脱するためには、OJTでの訓練が不可欠ですが、とりまとめ案にもある通り、個社での対応は限界があります。
また、ベテランクリエイターの多くが育成だけでは生活できないために、いまだに現場にいるという事例も業界では一般化しています。Off-JTの質を向上させて即戦力を育てるために、Off-JTを行う企業・個人への補助を行うなどの施策も必要であると考えます。
放送・配信コンテンツとしてアニメ産業をより伸ばしていくため、OJT/ Off-JTを行う企業や個人への補助の拡充を要望します。
アニメ人材の育成補助案についてはNAFCAの過去のパブコメ「新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見」( https://nafca.jp/public-comment03/)で発表しておりますので参考にご覧いただければと思います。
2.アニメ文化を支える視聴者層の厚み形成の必要性
アニメーションは単なる娯楽ではなく、日本の文化資産であり未来のクリエイター予備を育む”教材”です。
その持続的発展には、制作現場の改善や流通施策と同時に、作品を享受し支える視聴者層の多層的な厚みが欠かせません。
ここでいう「厚み」とは、作品としてのアニメに没頭する人たち、アニメの裏側まで楽しく語れる人たち、作品を芸術として味わい批評する人たち、そして新旧の作品を好奇心いっぱいに受け止める若い世代―そうした多彩なファンが層を成し、ゆるやかに重なり合っている状態を指します。
こうした層が広がれば、作品の幅もクリエイターが羽ばたく場も、自然に大きく広がっていくと考えています。
3.厚みを生み出すプラットフォームは “サブスク” よりも “地上波” が最適
サブスクリプション配信は利便性を提供しますが、作品視聴が個人のタイムシフト生活リズムに依拠するため、コミュニティ規模での同時体験や語り合いが生まれにくい構造です。
対照的に、地上波放送は「毎週同じ時間に同じタイトルを皆で楽しみに待つ」という共通体験を提供し、文化・流行・世代を超えた、共通の記憶を社会に刻みます。
体験の共有は作品の価値を高め、視聴者同士の対話やメディアの情報を通じて制作背景や表現技法への関心を喚起し、将来のクリエイターを生み出す土壌となります。
また、サブスクリプションは自らが「見に行く」という能動性を必要としますが、アニメを文化として支えるためには、「流れていたのをたまたま見た」という受動的な体験が重要です。この受動的な偶然の出会いをいかに増やすかということが、今後の放送・配信コンテンツ産業、アニメ産業の幅を広げるために必要不可欠であると考えます。
吹き替え作品についても同じ課題が顕在化しています。
地上波で多様な海外作品に触れる機会が減ると、アルゴリズムが薦める、似た嗜好の作品ばかりを視聴しがちになり、
受け手の感性が鈍る、クオリティへの要求水準が下がる、高品質吹き替えに対する対価意識が希薄化する、そのため制作側も品質向上に投じる予算を正当化できない、といった悪循環が起こります。
結果として、作品の質と制作予算が同時に細る負のスパイラルへ陥りかねません。
多様な文化に日常的に触れ、豊かな声優演技や翻訳表現を当たり前のように味わえる環境を守ることが、長期的には視聴者の感性と国内制作技術の双方を底上げします。
そのためにも吹き替え作品の地上波放送枠を安定的に確保し、公共文化として支援する施策が必要です。
4.「週1ゴールデン枠」・「2クール原則」・「再放送」推進の必要性について
視聴者層の厚みと制作現場の持続可能性を同時に担保するには、以下のような地上波制度整備が急務であると考えます。
(1)各局に対する週1本ゴールデン帯アニメ枠の努力義務
地上波各局へ、週1本以上のゴールデン帯アニメ放送を努力義務化する制度設計を希望します。
家庭での共通視聴体験が復活すれば、アニメが再び社会的・文化的公共空間の一部として認識される土台が形成されます。
(2)2クール放送の努力義務化
現在、多くのアニメ作品が1クール(10〜12話)に短縮され、物語性や演出技術、そして育成環境が犠牲になっています。アニメーター等制作側も出演する声優も、作品とキャラクターに慣れることの先に技術の発展があります。そのために期間として1クールはあまりに短く、現場にも時間的余裕がなくなるため、育成できる環境が非常に限定的になっているのが現状です。
これ回避するためには2クール(24〜26話)フォーマットを原則とし、制作費加算や税制優遇によるインセンティブ付与が必要です。
2クールは若手人材の実践型育成にも不可欠であり、作品と人材を同時に育てる枠組みであると考えます。
(3)傑作アニメの再放送の推進
国際的評価を得た名作アニメを対象に、地上波再放送を促進する制度的枠組みを求めます。
ゴールデンタイムでの再放送は、子どもや家庭が質の高い作品に接する良い機会であり、文化政策の一環として位置づけるべきです。
再放送を阻む権利処理の煩雑さや編成上の採算性について、政府主導でコスト補助と支援を要望します。
現行の「取りまとめ案」は制作・流通に重きを置いていますが、視聴者側の成熟と共有体験の充実こそが制作・流通を支える基盤です。
視聴環境の整備を、「コンテンツ戦略」の中核に据えるべきです。
5.効率的な権利処理に向けた一元的なシステムについて
アニメは権利の所在が複雑に絡まっているため、これらを整理して処理をする一元的なシステムの開発を歓迎します。このシステムを構築するにあたっては、制作に参加した一人一人のクリエイターへの利益配分を含むシステムの構築を強く要望します。現在のアニメ製作においては著作権の買取契約が主体となっていますが、3兆円を超える規模の産業で働くクリエイターが経済的に報われていない現状は、持続可能であるとは言えません。これらを解決するためには、一人一人のクリエイターの作品寄与率を一元的に管理し、余剰利益を分配する等のルールとシステムが必要であると考えています。
6.翻訳・ユニバーサル対応への支援について
日本アニメのグローバル展開には、多言語翻訳(字幕・吹替)支援の拡充が不可欠です。
優れた翻訳は、コンテンツ輸出の成功の鍵であると言えます。自動翻訳等による意図・文脈を汲まない翻訳ではせっかくの作品の質を毀損し、利益を損なうことに直結します。
さらに、視覚・聴覚障害者向けの音声ガイドやUD字幕が社会福祉に依存している現状を是正し、文化立国戦略として、制作初期から翻訳対応費やユニバーサル対応費を組み込める助成制度を創設することを提案いたします。
7.生成AIを利用したアニメを放送する際は、慎重な議論を
近年、アニメの現場には生成AIを導入する動きがあります。
新しい技術の導入を一概に否定はしませんが、生成AIを使用したアニメを放送するにあたっては、視聴者に対する商品掲示に関する責任があると考えます。
また、前述の通りアニメの権利関係は非常に込み入っているため、個々人のクリエイターの権利を損なわず効率的な制作に生成AIを活用することは、慎重な議論が必要だと考えています。
さらに日本アニメが海外で歓迎される背景には、日本アニメの多様性と手描きによるケレン味、温かみが大きいと確信しています。これら日本アニメの優位性を損なわずに制作の効率化を図るための方法は、幅広い慎重な議論が必要だと考えます。
8.まとめ
アニメ産業は単なる輸出コンテンツではなく、文化・教育・産業を横断する基幹分野です。視聴者層の厚み形成を核とする地上波放送、翻訳・ユニバーサル対応支援を戦略に盛り込み、制作者と視聴者が共に成長する循環型エコシステムを確立してください。
- ●人材育成のため業界/国が一丸となって取り組むこと
●アニメ視聴者層の厚み形成を、目標として明記すること
●週1ゴールデン枠・2クール作品・地上波再放送への制度支援
●翻訳・字幕・ユニバーサルデザイン助成制度の充実
●生成AIにより日本アニメの優位性を損なわず効率化する活用方法の模索
以上、視聴者と制作者がともに文化を育む未来を見据え、強く要望いたします。

