1.はじめに
私たちNAFCAは、日本のアニメ産業に従事するクリエイターおよびファン有志によって構成された業界団体です。
著作権者と連絡が取れず、著作物の利用機会や経済的便益を逸している現状を改善するという点で、本制度を新たな試みとして期待しております。
しかしながら、著作者確認のフローが不明瞭であること、著作権者のなりすましをどのように防止するかといった観点から、さらなる検討が必要であると感じています。
加えて、アニメーションという極めて複雑な著作権構造を有する分野に対し、現行の政令案は十分に適合していないのではないかという強い懸念を抱いております。
制度が善意の利用を支えるどころか、現場に混乱と権利侵害をもたらす可能性も否定できないため、以下のとおり慎重な制度運用を求めるパブリックコメントを提出いたします。
2.アニメ作品と著作権の特殊性
著作権譲渡と製作委員会の解散
制作スタジオは、委員会形式の出資者から著作権の包括譲渡を求められることが多く、しかも製作委員会自体が作品公開後に解散・清算されてしまう事例が非常に多く見られます。
その結果、「誰が権利を管理しているのか」が事実上不明となるアニメ作品が多数生じています。製作委員会が解散した際に「未管理著作物」と判断されてしまうとすれば、利用の際に支払われた補償金の行き先や、実際に制作したスタッフたちの心情を慮ると、首肯しがたいものがあります。一足飛びに「未管理著作物の活用」を制度化する前に、既存体制の整備や再構築等が必要ではないでしょうか。
3.すでに発生している問題の一例:NFT化された原画の無断販売
近年、アニメ作品の原画が権利者の許可を得ずNFTとして販売された事例が確認され、業界団体や制作関係者から注意喚起が行われました。
NAFCAも過去のパブリックコメント「知的財産推進計画2024の策定に向けた意見」などにおいて言及し、原画などの中間成果物が「著作権不明」の名目で取引されるリスクに強い懸念を表明しています。
未管理著作物裁定制度の導入により、探索や確認が不十分なままNFT化等の新興ビジネスに利用される事例が増えるのではないかという不安の声が、現場のクリエイターからも寄せられています。
4.改善に向けた提案
第一に、アニメーション作品を制度の適用対象から一時的に除外することをご検討いただきたいと考えております。
現時点では権利構造が極めて複雑であるにもかかわらず、制度が求める「合理的探索」や運用体制が追いついていないと考えます。
アニメ作品については一定期間適用除外とし、情報基盤の整備状況や制度運用の初動状況を見ながら段階的に対象とするか否かを判断すべきではないでしょうか。
第二に、作品制作段階からの権利情報登録制度の構築が急務です。
アニメ制作時に、主要な関係者の氏名や連絡先、権利の帰属関係等を届け出る仕組みを整備し、文化庁あるいは中立的な機関がそのデータベースを継続的に保管・更新できるようにすることが、制度の安定的な運用の条件であると考えます。
併せて、そこに紐づく利益の還元方法も同時に検討・構築いただければ幸いです。
第三に、業界団体による探索支援制度や、事前照会の仕組みが不可欠です。
アニメ分野における「合理的探索」が形式的・機械的な手続きにとどまると、本来意思を確認すべき著作者が気づかぬうちに作品が利用される懸念があります。
著作権の集中管理団体が存在しないアニメ分野では、著作者情報が断片的で、権利帰属の調査も困難であることから、既存制度と同様の探索プロセスを機械的に援用することには無理があります。
したがって、仮に本制度をアニメ分野に適用するのであれば、当該作品に詳しい中立的な学術機関や業界団体による探索支援および事前照会の枠組みは不可欠であり、それなしに制度を運用することは、制度趣旨とも整合せず、著作者の権利保護の観点からも重大な欠陥を孕むものとなると考えます。
第四に、NFTや生成AIなど新たな利用形態への制度的な配慮をお願いしたく思います。
NFT化されたアニメ原画や生成AIにより無断で作成された「偽物」が著作者の同意なく第三者に販売された事例がすでに確認されており、著作権者の人格的利益や名誉に重大な影響を及ぼす可能性があります。
今後、裁定制度が新技術・新市場への裏付けとして悪用される懸念もあることから、NFTやAI学習素材としての利用に際しては、人格権の観点から追加的な手続や通知義務を制度の中に明記すべきだと考えます。
第五に、仮にアニメ作品にも制度が適用されるとした場合、その補償金の額については慎重な議論が必要だと感じています。
前記の通り、該当作品の歴史的価値、芸術的価値などを正しく判断できる専門家の育成が急務であると考えます。
5.おわりに
本制度が多くの創作物に新たな光を当て、健全な文化循環の一助となることを私たちは心より願っております。
しかし、アニメーション分野はその構造的複雑性ゆえ、一般的な著作物とは異なる慎重な運用と丁寧な制度整備が欠かせません。
制度の趣旨が善意の利用を支えるものであるからこそ、文化の実態に即したバランスの仕組みが求められると考えております。
以上の点をご検討いただき、今後の制度運用にご配慮いただけますようお願い申し上げます。

