パブリックコメント「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に関する意見募集について」

フリーランス新法に関して厚生労働省および公正取引委員会より募集のありました「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に関する意見募集について」に対して、うち2件についてNAFCAより提出したパブリックコメントを公開します。

意見募集要領および各案はこちらから
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に関する意見募集について

目次

(4)特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等についての指針(案)
  1.はじめに
  2.「第2 3(2)」について
  3.「第3 1(3)」について
  4.「第3 2(1)ニ」について
  5.「第3 3ロ」について
  6.「第4」全体について
  7.「第4 3(1)イ」について
  8.「第4 3(2)および(3)」について
  9.「第4 4」について
  10.「第4 5」全体について
  11.「第4 5(2)」について
  12.「第4 5(3)」について

(5)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)
  1.はじめに
  2.「第2部 第1 1(3)ウ」について
  3.「第2部 第1 1(3)キ」について
  4.「第2部 第1 1(3)キ(イ)」について
  5.「第2部 第1 1(3)ケ」について
  6.「第2部 第1 1(4)」について
  7.「第2部 第2 1(1)」について
  8.「第2部 第2 1(2)(イ)」について
  9.「第2部 第2 1(4)」について
  10.「第2部 第2 2(2)ア」について
  11.「第2部 第2 2(2)イ」について
  12.「第2部 第2 2(2)エ」について
  13.「第2部 第2 2(2)オ」について
  14.「第2部 第2 2(2)カ」について
  15.「第2部 第2 2(2)キ」について
  16.おわりに

(4)特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等についての指針(案)

1.はじめに

私たち一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)は、アニメ業界従事者やアニメファンにより構成されている団体であり、アニメ業界の視点からのパブリックコメントを提出いたします。

本文中では、意見募集対象のうち(4)「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針(案)」についての意見について述べています。

2.「第2 3(2)」について

「特定受託事業者の募集と、労働者の募集が混同されることのないよう表示しなければならないこと」としていますが、アニメ業界においてはまさに「正社員の募集だと思って応募して契約したら、雇用契約ではなく業務委託契約だった」という事例が散見されています。ぜひ本指針を根拠に、募集情報に係る誤解を生じさせるような表示が無くなるよう、周知徹底されることを期待します。

3.「第3 1(3)」について

「継続的業務委託」の中で「契約更新により継続して行うこととなる」の判断基準として「①契約の当事者が同一であり、その給付又は役務の提供の内容が少なくとも一定程度の同一性を有し、」とあります。育児介護等の状況に応じた必要な配慮が必須となる継続的業務委託に該当するかどうかは、最終的には個別判断としているものの、原則としては「日本標準産業分類」の小分類を参照し、前後の業務委託に係る給付等の内容が同一の分類に属するか否かで判断することとしています。これについて、アニメ業界従事者については、働き方がかなり多岐にわたることもあり、もう少し個別判断のための例示がほしいと感じます。

たとえば契約当事者が同一であっても、声優と音響監督の業務は分類が異なるがどうなのか、アニメーターであってもキャラクターデザインと監督業は分類が異なるがどうなのか、など、育児介護等の状況に応じた必要な配慮については継続的業務委託に該当しなければ「必要な配慮をするよう努めなければならない」にとどまるのであれば、特定受託事業者側から申し出ることよりも特定業務委託事業者が率先して環境を提供できるよう、幅広いケースを想定して適用できる指針となることを期待します。

4.「第3 2(1)ニ」について

特定業務委託事業者へ、特定受託事業者が育児介護等の配慮の申出をしやすい環境を整備することが必要であることを示していますが、日本の現状にも鑑みて、これらの文言のみで環境整備が促進されるかといえば、非常に難しいのではないかと考えます。アニメ業界で例をあげるならば、声優は労働基準法で定められた産休期間を確保することもままならない状況であり、育児期間における配慮を特定業務委託事業者へ求めた場合には単純に取引の減少と直結するおそれがあります。介護への配慮についても、配慮を申出たところで取引減少は避けられず、介護が理由の引退も想定できます。

もちろんすべての特定業務委託事業者が、配慮をしたくても難しい状況もあることは理解できます。とはいえ、現状の日本の特定受託事業者の配慮の申出のしにくさを考えると、育児介護等の配慮に関しては、やはり特定業務委託事業者側がより率先して対応をしてあげられるような規定が必要であると考えます。「率先して配慮した事業者には何かしらの特典がある」といった状況を作ることも良いかもしれません。

5.「第3 3ロ」について

特定受託事業者が申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由として、契約解除や報酬の減額、取引の停止などは「特定業務委託事業者による望ましくない取扱い」であることに留意するとしていますが、これでは特定受託事業者の保護の観点としては、非常に表現が弱いと感じます。まず、「望ましくない取扱い」では、特定受託事業者が不利益を被るような事例を防げるとは考えにくく「してはならない」とするべきではないかと考えます。

また、特定業務委託事業者による不利益な取扱いに該当するか否かについて、申出をしたこと又は配慮を受けたこととの間に因果関係がある行為であることを要するとしている点について。もちろん因果関係は必要であることには違いないのですが、この規定のみでは、たとえば特定業務委託事業者側から「あなたが申出をしたこと自体が理由ではなく、総合的に判断して今回はお断りさせていただくだけです」と言われた場合、特定受託事業者にこれを本法違反として通報する術はあるのでしょうか。

まずは事前にトラブルを避けるためにも、特定業務委託事業者に対し、こういった行為をしてはならないと、行政からもしっかりと周知していただき、強く法令遵守を求めることが必要であると考えます。

6.「第4」全体について

ハラスメントについては「いかに事前に防ぐか」が非常に重要であると考えます。いかに罰則を強化しようとも、それでもなかなか抑止力となりにくいのもハラスメントの難しい一面です。さらに一度ハラスメントを受けてしまえば、やられた方は精神的に大変傷を負うものであり、そのような状態の者が通報や法的手段を講じることは甚だ負担であり困難であることは言うまでもありません。パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントをしてくるような特定業務委託事業者に対し、事後的に適切に対応したとして、特定受託事業者側はその後も同一の契約当事者と円満に取引を継続できるのでしょうか。

たとえば2(3)イのような典型的な例があった場合、このようなセンシティブな問題を特定受託事業者が自ら口にして相談することは非常に勇気の必要なことです。もしかしたら報復をおそれて泣き寝入りをしてしまうかもしれません。

残念ながら現状の文言では、どちらかといえば事後的な対応についての文言に感じられ、事前にそのようなハラスメントを行うことは決してしてはならないというような内容ではないように思えます。特定受託事業者が過剰にハラスメントに反応してしまうような内容は望みませんが、より事前にハラスメントを防止できるような規定内容となることを期待します。

7.「第4 3(1)イ」について

「特定受託業務従事者が、」と限定していますが、本人だけでなく配偶者の妊娠出産等も含め、配偶者へのサポートのための育休時間の確保等も対象とするべきではないかと考えます。

8.「第4 3(2)および(3)」について

妊娠したこと等「のみ」や、配慮の申出等「のみ」とした場合、先述のとおり「それが直接的な理由ではなく総合的に判断してお断りするだけです」という逃げ道になるのではないかと感じます。

9.「第4 4」について

これについては具体的な例示も多く、ぜひ幅広く適用していただきたいと考えます。このような取引上の優越的な関係が成立している場合、非常にパワーハラスメントが起こりやすい状況であると考えられるため、事前および事後、いずれにおいてもしてはならないと周知徹底していただくことを期待します。

10.「第4 5」全体について

特定業務委託事業者が企業である場合を想定しているかと思われますが、まず指摘したい点として「経営者の姿勢次第」であることが懸念されます。残念ながら、いかにハラスメント防止のためのルールを形式的に作ろうとも、従業員が経営者の姿勢を正すことは非常に困難であり、ルールが適切に運用されるかどうかは経営者の姿勢次第であることは否めないと感じます。

たとえば「ハラスメントは絶対に行いません。行った場合はこのような罰を与えます。違約金も払います。」といった誓約書を案件ごとに毎回書く、といったような具体策を講じたとしても、経営者の姿勢次第では、これを無視することは十分にあり得ると考えられます。その場合に、特定受託事業者が個人でそういった企業に対して法的措置を講じることは、非常に負担が大きく困難であるとも考えられます。問題のある経営者の姿勢を正すような内部統制を、ある程度強制的に促すような規定が必要かもしれません。

11.「第4 5(2)」について

中小企業においては、人員も限られていることも想定され、ハラスメント相談のための体制の整備は難しいのではないかと感じます。特に「①外部の期間に相談への対応を委託すること」は、行政のサポートがある場合はまだしも、民間に委託することは費用面からも難しいと考えます。

また、特定業務委託事業者が中小企業の場合、ハラスメントの内容や付き合いの面、ハラスメント当事者が代表者である場合など、様々な理由からハラスメントの相談を代表者へすることが憚られることも想定されます。

ハラスメントの相談体制の整備については、行政による積極的なサポートも必要であると考えます。

12.「第4 5(3)」について

①において「第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること」としていますが、ここで想定する「第三者」が特定業務委託事業者側が指定する者であった場合、ハラスメントを受けた特定受託事業者がそれを拒否することや問題解決を期待することができるのでしょうか。

また②においては「中立な第三者機関に紛争処理を委ねること」としていますが、特定受託事業者に金銭的な負担がかかる場合、泣き寝入りしてしまう可能性も考えられます。これについても、行政による積極的なサポートが必要ではないかと考えます。

(5)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)

1.はじめに

私たち一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)は、アニメ業界従事者やアニメファンにより構成されている団体であり、アニメ業界の視点からのパブリックコメントを提出いたします。

本文中では、意見募集対象のうち(5)「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(案)」についての意見について述べています。

2.「第2部 第1 1(3)ウ」について

給付に関し特定受託事業者の知的財産権が発生する場合には、当該知的財産権の譲渡や許諾の範囲を明確に記載する必要があるとしていますが、アニメ業界においては「給付に関して知的財産権が発生する場合には、特定受託事業者(アニメーター、キャラクターデザイナー、声優等)は、業務委託事業者へ当該権利を譲渡もしくは許諾をするものとする」といった内容での条件提示があたかも「慣例である」といった空気で業務委託をする場面が多々見られるのが実情です。したがって、知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載するとは、現状ではすなわち「譲渡・許諾は当然してください」と単に明文化して押し付けるだけに過ぎない結果になるのではという懸念が残ります。特定受託事業者が仕事を失うことをおそれて泣き寝入りしないで済むような、より現実に即した規定になるよう望みます。

具体的には「業務委託事業者は、給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲の記載を示すにあたって、特定受託事業者に対して提示した範囲で知的財産権を譲渡・許諾させることを、当然である、慣例であるといった説明をしたり、圧力をかけることはしてはならない。また、そもそも譲渡や許諾について断る機会を与えない、これを承諾しなければ契約しないといった圧力をかけることも本法違反となる。」など、提示された内容を断れないような空気を作ってはならないと注意喚起するような内容を望みます。

また、アニメ業界に限らず特定受託事業者が実演家であった場合など、給付に関し知的財産権以外の権利が発生することも想定されますので、知的財産権「等」とし、特定受託事業者の保護の観点から本規定が幅広く活用できる内容となることを期待します(※知的財産権に関わる規定については、本法全体として知的財産権「等」としていただけることをぜひご検討いただければと思います)。

3.「第2部 第1 1(3)キ」について

アニメ業界でいえば特に声優業界においては、声優事務所に所属している場合、業務を委託されたタイミングで報酬の額を明示されることが無い場合も散見されます。その場合、特定受託事業者から本法をもって報酬の額を問い合わせるのは、特に経験の浅い新人にとってはハードルが高いことだとも考えられます。業務委託事業者から率先して報酬の額を明示するよう、行政の周知と指導をぜひお願いします。

また、支払期日に関しては、契約書等を根拠に具体的な日を特定することは可能ではあるのですが、残念ながら当該支払期日が形骸化しているような場合においては、声優は支払期日を過ぎていたとしても、声優事務所からの入金があるまで待つことしかできないという場合も散見されます。もちろん業務委託事業者である声優事務所にやむを得ない事情がある場合も考えられますが、現状では特定受託事業者である声優は今後の仕事への悪影響をおそれて支払期日について問い合わせたり支払いの催促をすることもかなりハードルが高いと思われます。したがいまして、特定受託事業者の側から本法を持ち出して是正を図ることは困難であるという点をふまえ、まずはしっかりと本法を遵守するよう、行政からの積極的な周知徹底と指導をしていただくことを望みます。

4.「第2部 第1 1(3)キ(イ)」について

先述のとおり、アニメ業界、特に声優業界では報酬の額が明示されないという問題がありますが、そうなりますと知的財産権の譲渡・許諾がある場合に「本当に当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価が報酬に加えて支払ってもらえるのか」を業務を委託されたタイミングで確認することも困難であると考えられます。仮に入金のタイミングで譲渡・許諾に係る対価が報酬に加わっていないのではないかと思っても、事後的にそれを声優事務所に指摘することはやはり難しく、ましてや対価が加わっていなかった場合に上乗せ分を後日支払うように要求することは現状ではまず考えにくいでしょう。実績のあるベテランなら可能かもしれませんが、経験の浅い新人の場合は泣き寝入りしてしまうことも多いかもしれません。

そういった実情をふまえて、このような問題の解消のためには、行政から積極的な周知徹底と指導をしていただき、あわせてアニメ業界全体でもこのような状態は非常に問題であることを自覚し、環境改善を図っていけるよう努力すべきであると考えます。

5.「第2部 第1 1(3)ケ」について

業務委託の明示事項の内容が定められないことにつき、本当に「正当な理由」があるかどうかを特定受託事業者が確認することは極めて難しいことであると考えられます。まずは、全ての明示事項の内容を原則として直ちに特定受託事業者に明示することを徹底するよう、行政からの周知と指導を望みます。

6.「第2部 第1 1(4)」について

アニメ業界においては再委託が行われる場合が非常に多いですが、元委託者が特定業務委託事業者にいつ元委託業務の対価の支払いをしたのか、現状では特定受託事業者は基本的に知る由がありません。したがって、仮にウのとおり業務委託のタイミングで元委託業務の対価の支払期日を明示したとしても、元委託者からの支払いの事実の有無にかかわらず「元委託者からの支払いがまだ無い」と言われてしまえば、本規定は形骸化してしまうのではという懸念が残ります(※後述の8のとおり、元委託者からの支払いの有無の事実にかかわらず支払期日通りの支払いが原則ではありますが、言葉として「元委託者からの支払いが無いから払えない」と言われてしまえば、それ以上の催促は困難となる可能性が高いと考えます)。

これについては、まずは特定業務委託事業者および元委託者に、本規定および特定受託事業者との契約通りに報酬を期日までに支払うことを遵守させるよう、行政の指導を積極的に行ったり、違反した際のペナルティを強化するなどの対策を講じることが有効であると考えます。

7.「第2部 第2 1(1)」について

現在の日本のアニメ制作の現場においては、高いスキルを持つ人材が極端に不足していることが原因で、ベテラン層が高頻度で手直しをしなければならないケースが多くみられます。本規定によれば原則として「受領した」と判断するのは、検査をするかを問わず物品や情報成果物の受け取り時であり、検査がある場合には検査の開始をすれば「受領した」ことになるとしています。ただしエでは、特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとしてやり直しをさせた場合には、やり直しをさせた後の物品又は情報成果物を受領した日が支払期日の起算日となるとしています。

では、先ほど説明した「スキルが高くないことが判明した特定受託事業者であるアニメーターが仕上げた物品を、他のスキルの高いベテランが手直ししなければ使い物にならない」といったケースの支払期日についてはどうなるのでしょうか。

10で後述いたしますが、現在の日本のアニメ業界はレモン市場状態です。特定受託事業者本人にやり直しさせても特定業務委託事業者の求めるクオリティが期待できないことが判明した、といった場合、報酬の期日や報酬の額について当初の内容通りとなるのかどうか明確ではないように思えます。

当法人(NAFCA)ではこのようなベテランが不要な手直しで疲弊しないよう、スキルの高い人材の育成を急いでいますが、この現状は急には改善されるわけではありません。本法によって契約当事者の一方が過度な負担を強いられることのないよう、柔軟に適用できるような規定であることを望みます。

8.「第2部 第2 1(2)(イ)」について

元委託者からの支払いの有無にかかわらず、特定業務委託事業者から特定受託事業者への支払期日が設けられたとしても、現実には元委託者からの支払いが無いと特定受託事業者への支払いもできない中小企業等の特定業務委託事業者も多いのではと考えられます。また、6で述べた通り、特定受託事業者は元委託者からの支払いがあったのかどうか知る由がありませんので、事実がどうであれ結局は特定業務委託事業者からの説明に従うほかなくなるのではという懸念が残ります。6同様、まずはそれぞれが期日通りに報酬の額を支払うことを遵守させるよう、行政の積極的な周知徹底と指導を求めます。

9.「第2部 第2 1(4)」について

何度も申し上げていることではありますが、特定受託事業者は元委託者からの支払いがあったのかどうか知る由がありませんので、元委託者からの前払金の支払いの有無も当然ながら知りようがないのが現実かと思われます。したがって「適切な配慮」を求める以前に、元委託者からの前払金の有無について、情報を共有することも検討すべきではないかと考えます。「適切な配慮」とする趣旨として、特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し、必ず前払金として支払うことにすると、特定業務委託事業者にとって過度な負担となる可能性があるとのことですが、特定受託事業者に関しては元委託者からの前払金の有無を知る手段がそもそも無いことが通常であることから、立場が公平ではないように思えます。そして特定業務委託事業者が本規定の「適切な配慮」を都合よく解釈してしまい、結局は「前払金があることは知らせないことが慣例」になってしまうのではという懸念が残ります。したがって、元委託者からの前払金がある場合には、原則として情報を共有したうえで、双方が負担とならないように委託業務ごとに前払金の扱いを検討することとする方が、どちらかといえば妥当ではないかと感じます。

10.「第2部 第2 2(2)ア」について

7で述べたとおり、現状の日本アニメ制作の現場では、特定受託事業者のスキルが適正に可視化されていない等が原因で、特定業務委託事業者の希望するクオリティの物品等ではなく、受領しがたい(別のスキルのある者による大幅な手直しもしくはイチから作り直しが必要である)場合が散見されるのが実情です。私たちNAFCAではスキルの可視化のための検定実施を予定しておりますが、当面はこういった現状は続くことが予想されます。

本規定においては「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」が限定列挙されていますが、レモン市場状態のアニメ制作の現場において「とてもこのままでは受領できないし、スキルが低いのだから本人にやり直しをさせることも期待できない」といった場合もあり得ないことではないため、本規定が特定業務委託事業者にとって負担になる可能性があるのではないかと感じます。検査基準の明示も、アニメ制作における職人の技術を明文化することは非常に難しく、どのような場合が違反になるのか明確ではないように感じます。報酬の減額の話し合い等により解決できれば良いのですが、アニメ業界の実情に沿って、契約当事者の一方にのみ負担になることが無いよう、本規定においても柔軟に適用していただければと思います。

11.「第2部 第2 2(2)イ」について

こちらでは、仮に特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で報酬の減額等についてあらかじめ合意があったとしても「特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく」報酬の額を減ずる場合は本法違反となる、とされています。さらに(エ)において特定受託事業者の責めに帰すべき事由を限定列挙していますので、これらに該当しなければすべて本法違反と判断できることとなります。

アニメ業界において、本規定についてどのように適用されるのか明確でないと思われる事例を挙げさせていただきます。

令和5年10月1日にインボイス制度が導入されたことにより、多くの消費税免税事業者の声優が声優事務所との契約内容の見直し、つまり報酬の減額を余儀なくされました。基本的には声優事務所から声優へ説明をしたり、契約書を作り直したりといった対応が行われましたので、ここでは「あらかじめ合意」はあったものであるとは考えます。

しかしながら、本規定における「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」とは、(エ)で①委託内容と適合しない等の事情がある場合、②特定業務委託事業者自らによる手直しがあった場合に負担した費用分を減額する場合、③手直しの費用負担は無くても委託内容に沿わなかったり納期の遅れによる商品価値の低下などの事情がある場合、というケースに限定されていますので、「特定受託事業者が消費税免税事業者であること(またはインボイスの登録をおこなっていないこと)」は、この「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」には当てはまらないと解します。

また(イ)では「消費税・地方消費税相当分を支払わないこと」としていますが、特定受託事業者が免税事業者または課税事業者であるかについての明示が無いことから、免税事業者でインボイスの登録をしていない場合であっても消費税・地方消費税相当分の減額は本法違反であると解します。

声優の報酬減額の合意は基本的に令和5年10月以前に行われており、声優と声優事務所との業務委託契約(再委託されていることを想定)は年単位で継続するものでありますが、このような事例についてはどのように適用されるのでしょうか。

適用できないのであれば、多くの声優が本法においてこれを規定しても意味が無いと失望することでしょうし、一方で適用できるのであれば、すべての声優事務所が再び免税事業者の所属者全員分の契約の見直し作業を強いられ、さらに消費税の仕入税額控除が認められない分の負担を強いられることになると想定されます。

また、令和6年5月現在ではインボイス制度は経過措置期間でありますが「消費税・地方消費税相当分を支払わないこと」に「消費税・地方消費税相当分のうち仕入税額控除が認められない金額のみを支払わないこと」は含まれるのかどうか、それも明確には読み取れません。

これは個別事例ではありません、声優業界全体で起こっている事例であることを知っていただきたいのです。この事例について本法がどのように適用されるものなのか、現段階で明確にするべきであると考えます。そうでなければ、本法施行後に契約の当事者同士でトラブルとなり、信頼関係が破壊されるおそれがあります。本規定については特定業務委託事業者と特定受託事業者の双方に大きな影響のあるものであり、いずれか一方だけに過度な負担をかけるものであってはならないと考えます。まずは本規定がどのように適用される方針なのかを明確にしていただくことを求めます。

12.「第2部 第2 2(2)エ」について

(ア)では「通常支払われる対価」の基準として「取引地域」を用いていますが、オンライン上で業務が完結することも増えているため、取引地域から通常の対価を判断するのは困難な場合も多いと考えられます。そういった場合は従前の給付に係る単価で計算された対価を参考にするなど具体例があげられていますが、従前の給付が無い場合には、正確な相場を調査することは非常に難しいと考えられます。特にアニメ業界においては、経験の無いまたは浅いアニメーターや声優がオンライン上で通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を提示されたとしても、業界に参入したい気持ちが先行して「こういうものか」と受け入れてしまうといった問題も起こっています。

需要と供給の観点からは、この問題に介入することは非常に難しい側面もありますが、もう少し具体例を明示したうえで、アニメ業界と行政が協力して、通常支払われるであろう対価の額を著しく下回るような案件は安易に受注しないよう注意喚起する必要があるのかもしれません。極端に低い価格で受注する者が多いと、その額が相場となってしまい、ひいては「通常支払われるであろう対価の額」もどんどん下がりますので、買いたたきに該当しにくくなる状況を自分たちで作ってしまうことになります。これについては業界内部からも積極的に周知すべきことだと理解しています。

また(イ)の買いたたきに該当するか否かは、列挙されているような判断要素をもって総合的に判断するとされていますが、書面等が無い場合これらの判断が非常に難しくなることが想定されますので、基本的に双方のやりとりは書面または電子メール等に記録しておくよう、行政からも広く周知していただくことを望みます。

13.「第2部 第2 2(2)オ」について

自己の指定する物の購入又は役務の利用強制については、アニメ業界においてはそれほど頻繁に見られるわけではないかもしれませんが、基本的にこのような強制があった場合には特定受託事業者側が断ることは非常に難しいと考えられますので、まずはこういったことはしてはならないと、アニメ業界と行政が協力して広く周知する必要があると思われます。

14.「第2部 第2 2(2)カ」について

本規定についてはアニメ業界においては非常に影響が大きいといえるでしょう。アニメ制作の現場においても、声優業界においても、特定受託事業者に知的財産権が発生する場面は多く見られます。しかしながら、キャラクターデザインを行ったアニメーター等や声優は、基本的に「特定業務委託事業者が特定受託事業者に発生した知的財産権を、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて無償で譲渡・許諾させる」といった「不当な経済上の利益の提供要請」を強制されているもしくは譲渡・許諾の機会すら与えられていないのが実情です。具体例として「収益を特定受託事業者に配分しない」「特定受託事業者による二次利用を制限する」などがあげられていますが、まさにアニメ業界において広く問題となっている事案であります。

しかしながら、本法においてこれらが違反となるとして、すでに「特定受託事業者の知的財産権は無償で譲渡・許諾が慣例」となっているアニメ業界に対し、速やかに網羅的に遵守させることは非常にハードルが高いことであるとも感じます。本法の施行後、それぞれが自主的に本法を遵守してくれるのであれば大変すばらしいことではありますが、残念ながらその期待は薄いというのが実情といえるでしょう。

したがいまして、これらの問題を真に解決することを目指すのであれば、アニメ業界と行政が協力し、周知と指導を徹底し、違反があれば強く取り締まることが必須となると考えます。「アニメ業界はブラックである」のような印象を国内外に与えることのないよう、本規定をもとにしっかりと取り締まっていただくことを望みます。

また、「業務委託の目的たる使用の範囲を超えて」としている部分も非常に判断が難しいと考えられるため、特定受託事業者の保護の観点を重視し、柔軟に適用していただくことを強く望みます。

15.「第2部 第2 2(2)キ」について

本規定については、アニメ業界の中では特にアニメ制作の現場において非常に影響が大きいといえるでしょう。

10で述べた通り、本意見を提出する時点ではアニメーターのスキルを正確に可視化する手段が無いためレモン市場状態となっています。日本のアニメ制作の現場では、アニメ制作本数の急増などの事情から、新人(経験が全く無いまたは浅い者)の育成時間の確保もままならず、スキルの高い人材が極端に不足しているという問題を抱えています。特定業務委託事業者はレモン市場の中でなんとか人材を確保しながら、本来不要である手直しの時間と費用の負担を強いられているケースも多いのです。

では、このような日本のアニメ制作の現場に本規定を適用するとどうなるでしょうか。

特定受託事業者による物品等が特定業務委託事業者の希望するクオリティに満たなかった場合、基本的には同一の特定受託事業者にやり直しをさせても、特定業務委託事業者の希望するクオリティに仕上がることはあまり期待できないことから、特定業務委託事業者の選択する「スキルの高い別の者」にやむを得ず手直しを別途委託することが想定されます。

本法においては返品についての規定もありますが、このような事例においては受領拒否および返品というよりは、給付された物品等のクオリティが低くても特定業務委託事業者は泣く泣く受領せざるを得ず、次回以降の発注を控えることしかできないのが実情です。そうなりますと、本規定における「特定受託事業者本人に給付をやり直させる」ようなケースはあまり想定されません。

したがいまして現状の規定では、レモン市場における「特定業務委託事業者が特定受託事業者本人とは別の者に手直しをしてもらうことにより追加で費用を負担する場合」について、特定受託事業者に負担してもらう場合や契約の解除などが想定されていないように感じます。

本法は特定受託事業者の保護の観点から制定されるものと解していますが、特定受託事業者のスキルの可視化がされていない状態で、特定業務委託事業者に過度な負担がかかることはあってはならないと考えます。私たちNAFCAではアニメーターのスキルを可視化すべく検定の実施を急いでいるところではありますが、他の業界においてもこのような事例は起こり得るものだと考えられますので、日本の実情をよく調査したうえで、契約の当事者双方が不利益を被らないよう、規定の改良や追加も検討していただければと思います。

16.おわりに

率直に申し上げまして、アニメ制作の現場や声優業界といった日本のアニメ業界の実情が、まだまだ把握されていないように感じました。本意見の中で示されたような様々な問題は、日本アニメ制作黎明期から「慣習」として受け入れるしかなかったという側面があります。

もちろん本法がアニメ業界において適切に運用されるのであれば、改善される点も多々あることは承知しておりますが、現状において山積されている問題をすべて解決するのであれば、今の日本の現状とあまりにかけ離れた状態へと急転換させることになりますので、これがスムーズかつ自主的に行われるのかといえば、残念ながら非常に難しいことであるとも感じています。

おそらくですが、本法の存在や、本法が始まったということ自体を「知らない」という事業者が今後多数出てくるのではと想定されます。そうなればアニメ業界全体で本法を遵守させることは非常に難しくなると思われます。行政とアニメ業界が協力して、本法について周知徹底を行うことは必須であると、ぜひご理解いただければと思います。

また、本法に違反があった場合、公正取引委員会等による助言指導をはじめとする対応が行われるかと思いますが、個人や中小企業レベルにおける違反の場合、罰金まで科されるケースはまず期待できないのが実情であると感じています。したがいまして、現状ではたとえ本法が施行されても、事後的な問題解決は非常に困難であり、信頼関係が破壊された相手とは取引を継続することがそもそも難しいため、結局「仕事が無くなって終わり」なのではという懸念が残ります。

あらためて強調いたしますが、いかに「事前に」問題が起こらないようにするかが重要であると考えます。本法が施行されたことのみをもって満足しては意味が無いものとなってしまいますから、アニメ業界と行政の双方が協力して、まずは「事前に」問題が起こらないような環境作りのために、本法の周知徹底を業界の実情に配慮しながら行うことが必須であると考えます。

そして事前の牽制の強化だけでなく「事後的」な救済措置も、当然ながら必要であることには違いありません。先述のとおり、現状では公正取引委員会等による助言指導などの対応を求めるにとどまり、さらにその対応までかなりの時間(独占禁止法違反関連の通報は現状では半年以上かかるという情報が複数寄せられています)待たなければならないのが実情です。これでは本法違反があっても、適時に問題が解決されることは期待できず、しかも対応が何段階にも分かれていることから、通報した者が心身ともに疲弊したり、待てずに泣き寝入りを選択せざるを得ないおそれがあります。

また、これまで「慣習」とされてきたことで、本法違反になるような事例について我慢し、受け入れるしかなかった現役を引退したアニメーターや声優などの多くの元アニメ業界従事者もいることをどうか忘れないでください。この現役を引退された皆さんの中には、知的財産権等を「慣例」でなんの確認もなく譲渡・許諾せざるを得なかった人たちもたくさんいます。

現役のフリーランス等だけでなく、現役を引退された皆さまが抱え続けている問題まで解決できるよう、ぜひ様々な業界についてより一層ヒアリングを行い、アニメ業界に限らず、日本の多くの事業者が安心して働けるよう、本法の内容や行政の事後的な対応が、事業者の尊厳や権利を幅広く保護できるものとなることを望みます。

さらに申し上げれば、現在設けられている「フリーランス・トラブル110番」について、和解のあっせんや調停機能などはあっても、根本的な問題解決を図ることが困難であるのが実情であると感じています。この点、労働者の場合であれば、労働者と事業者間の紛争に関して簡易・迅速な特別な裁判手続として「労働審判制度」が設けられていますが、特定受託事業者であるフリーランスと委託者側の事業者間の紛争についても、例えば労働者に準じた扱いとして労働審判の適用対象に広げるなど、ぜひ本法とセットで、特定受託事業者であるフリーランスと委託者側の事業者間の紛争に関して「簡易かつ迅速な紛争解決手段」を講じていただくよう、強く望みます。