「アニメの制作現場における取引の適正化に関する指針」について

内閣府知的財産戦略推進事務局と公正取引委員会の連名で策定された、「アニメの制作現場における取引の適正化に関する指針」が公表されました。

NAFCAは、この指針を、アニメ業界に関わるひとりでも多くの方に読んでいただきたいと考えています。

本指針では、アニメ制作における各取引段階について、重要な論点が具体的に整理されています。

これまでアニメ業界での「慣行」「慣例」とされてきた取引の中にも、法令上問題となり得る行為があることが、具体的な事例と「望ましい取引のあり方」とともに明示されました。

今回の指針に盛り込まれた内容の多くは、フリーランスや中小事業者など、取引上弱い立場に置かれやすい関係者を守るためのものであると捉えています。

同時に、フリーランスの皆さまに対しても、契約書を確認し、必要に応じて協議した上でサインをするなど、自らの権利と仕事を守るための行動を促すものでもあります。

これまでの慣例だけでは、弱い立場の方を十分に守りきれないこともあります。

だからこそ、この指針を、フリーランスを含むアニメ業界に従事するすべての関係者に、自分自身に関係のある文書として読んでいただきたいと考えています。

本指針が、ひとりでも多くのアニメ業界関係者に届き、アニメ制作の現場に公正な取引を根付かせる一助となることを願っています。

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指針全体の意義について

本指針は、「我が国のクリエイターの創造性が最大限発揮される環境を整備する」という政府の方針を踏まえて作成されています。

指針本文には、「クリエイターの創造性や能力が最大限発揮され、制作会社やフリーランスに適切に収益を還元する環境を整備するためには、発注者である製作委員会等や制作会社において積極的な対応が求められる」と明記されています。

これは、クリエイターの創造性や能力こそがアニメ作品を生み出し、業界全体を形作っていることを公的に確認するものです。

※参照:P1、P4

以下に、今回の指針の要点をまとめました。

フリーランスに関する項目

この指針やフリーランス法、中小受託取引適正化法等の関連法案を遵守しない場合には法令違反となる可能性があります。十分に確認してください。

【契約条件について】

制作会社など発注者に対し、業務内容、報酬額、支払期日等の取引条件の明示が求められています。口頭だけの依頼や、条件が曖昧なままの作業開始は、後のトラブルにつながりやすいものです。フリーランスの皆さんも自分の仕事の範囲、報酬、納期、支払時期を確認することが重要です。

※参照:P37~39

【報酬について】

報酬金額は、作業の量と難易度、技術力、経験、物価上昇等を踏まえて定めることが求められています。従来の単価や慣行だけで報酬が決まるのではなく、実際の負担や専門性に応じた対価を協議することが重要です。

※参照:P39~42

【短納期発注について】

短納期によりクリエイターに負担が生じる場合、その負担に応じた報酬を定めることが求められています。

短納期であることを理由に、報酬や条件を確認することは正当な交渉です。まずは交渉の場を設けることが重要です。

※参照:P42~44

【追加作業・リテイクについて】

当初の契約と異なる業務、クリエイターに責任を負わせるべきではないリテイク等により追加費用が発生した場合、追加の報酬を支払うことが求められています。

修正や追加作業が、当然に無償で行われるものではないことが示されました。

作業範囲が変わる場合には、報酬についても確認しましょう。

※参照:P46~49

【減額・支払遅延・不払について】

発注後の一方的な減額、支払遅延、不払は、クリエイターに不利益を負わせる重大な取引上の問題です。

納品後に報酬を減らされる、支払が遅れる、支払われないといった行為は、不公正な取引といえます。

一人で抱え込まず、記録を残し、必要に応じて公正取引委員会や弁護士等に相談してください。

※参照:P49~51

【製作委員会等との直接取引について】

本指針では、監督、脚本家等の一部の職種について、製作委員会等が直接委託する場合もあることが明記されています。

これは、監督、脚本家、キャラクターデザイナー等、作品の中核を担うメインスタッフが、製作委員会等と直接の関係を持つ場合があることが、公的な指針の中で示されたものです。

従来、製作委員会等とメインスタッフとの直接のやり取りは、契約上及び取引上の位置づけが不明確なまま進んできた面があります。

しかし、メインスタッフは、作品の方向性、スケジュール、権利処理、二次利用、広報対応等について、製作委員会等と直接やり取りを行う場合があります。

今回の指針ではそこまでの詳細は記載されていませんが、今後はこうした関係もまた、公正で透明な取引関係として行われるべきだと考えています。

※参照:P3~4

制作会社の皆さまへ

指針本文が示すように、「クリエイターの創造性や能力が最大限発揮され、制作会社やフリーランスに適切に収益を還元する環境」を整備するためには、製作委員会等と元請制作会社との間でどのような条件が定められるかが大きく影響します。

製作委員会等と元請制作会社との間の取引についても以下に要点をまとめましたので是非ご一読ください。

【製作委員会等との取引について】

製作委員会等から制作を受託する際には、発注時点で取引条件が書面等により明示されることが求められています。

作品名や納期だけでなく、制作委託費、支払条件、業務範囲、追加作業の扱いなどを確認し、曖昧なまま制作に入らないことが重要です。

※参照:P3~4、P7~9

【制作委託費の交渉について】

制作委託費については、必要な説明や情報の提供をしつつ十分に協議し、要求クオリティの高度化、制作期間の長期化、物価上昇等を踏まえて定めることが求められています。

必要工数、人員、制作期間、想定されるリスク要因などを可能な限り具体的に示し、現場の実態に見合った対価を交渉していくことが重要です。

※参照:P9~12

【著作権の譲渡条件について】

元請制作会社に帰属する著作権を製作委員会等に譲渡する場合には、譲渡対価を含む取引条件について十分に協議することが求められています。

著作権を無償又は不明確なまま移転するのではなく、制作委託費との関係を含め、権利の価値と対価を明確に確認することが重要です。

※参照:P12~15

【制作印税及び二次利用の対価還元について】

二次利用の対価の還元が進むよう、制作印税等についても十分に協議するべきことが示されています。アニメ作品は、放送や配信にとどまらず、商品化、海外展開、二次利用等を通じて長期的に価値を生み出します。その価値が制作会社にも適切に還元される仕組みを、製作委員会等との交渉の中で確保していくことが重要です。

※参照:P12

【追加作業・リテイクについて】

製作委員会等は、制作期間の延期・延長、当初契約と異なる業務、やり直し(リテイク)等により追加費用が発生した場合、元請制作会社へ追加の制作委託費を支払うことが求められています。

発注側の都合や、制作会社の責めに帰すべきではない事情による追加負担を、制作会社が当然に引き受けるものとして扱わず、費用負担について協議することが重要です。

※参照:P17~20

【下請制作会社・フリーランスへの発注について】

制作会社が下請制作会社やフリーランスに発注する場合にも、取引条件の明示、報酬の協議、追加費用の支払、支払遅延・不払の防止が求められています。

制作会社は、上流との交渉で適正な条件を確保する立場であると同時に、下請制作会社やフリーランスに対しては発注者でもあります。

上流から受け取る条件を明確にし、下流の取引先に対しても、公正で透明な取引を行うことが求められます。

※参照:P26~36、P37~51

【動画配信事業者との取引について】

動画配信事業者との取引においても、対価の交渉・設定や視聴回数等情報の開示について整理されています。

配信時代においては、作品の利用実態を踏まえた対価交渉と、情報開示のあり方が重要です。

本指針は、制作会社が適正な対価や必要な情報開示を求めていく上で、重要な手がかりになるものと考えます。

※参照:P22~25

【生成AIについて】

本指針では、生成AIの利用に関する言及はありません。 しかし、アニメ業界をはじめとするクリエイティブ関連産業において、生成AIの利用は、今後の取引・契約上、重要な論点になると考えます。

本指針が目指す公正で適正な取引を実現するためにも、制作工程における生成AI利用の可否、クリエイターが制作した成果物を機械学習に利用することの可否等について、法令を遵守するだけでなく、契約締結前に明示し、当事者間の十分な協議と合意を経た上で運用することが望まれます。

また、政府や地方自治体が、広報物や資料等に生成AIを安易に用いる事例が見られます。

現在の生成AIをめぐっては、学習データの利用許諾、権利者への対価還元、利用過程の透明性等について、なお多くの課題が残されています。

政府及び地方自治体においては、こうした状況を十分に踏まえ、生成AIの利用について慎重に判断することを求めます。

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※本文中の太字部分は、「アニメの制作現場における取引の適正化に関する指針」からの引用又は指針本文の表現に基づくものです。

※各項目末尾の「参照」は、同指針本文PDFにおける該当ページを示しています。指針本文を確認する際の目安としてご参照ください。