一般社団法人 日本アニメフィルム文化連盟(以下、NAFCA)は、このたび公正取引委員会が公表した「アニメの制作現場におけるクリエイターの取引環境に係る実態調査報告書」に対し、深い敬意を表します。
長年にわたり現場関係者の間で語られてきた課題について、丁寧なヒアリングと統計調査を積み重ね、論点を正面から整理した本調査は、極めて意義深い取り組みであると受け止めております。
下記に論点をまとめたこれらの問題は、業界で働く人々の努力や善意のみで解決できるものではなく、アニメ産業の構造そのものに根差したものであると認識しています。
本調査の内容が、日本アニメを愛し支えてくれたファンの皆さんも含めて広く社会に共有されていくことで、アニメ産業はより健全な議論と選択を積み重ねていくことができると考えております。
公正取引委員会は、本調査に基づき、是正に向けた指針を策定すると発表しています。
私たちNAFCAは、その指針を出発点として、交渉力の是正、著作権の適切な位置づけ、情報開示の確保、そして制作の実態に即した報酬設計について、業界全体で建設的な対話とルール形成が進むことを期待します。
「映画・アニメの制作現場におけるクリエイターの取引環境に係る実態調査について」要点まとめ
【業界内の構造、交渉について】
・製作委員会を構成する事業者の多くが映画会社、放送事業者、出版社、広告代理店等の大企業である一方で、アニメ制作会社の約98%が中小企業、そのうち65%が資本金1,000万円以下の小規模な会社であるという、産業構造上の著しい非対称性が改めて示された。
→ このような構造の下では、製作委員会に対して制作会社が交渉力において不利な立場に置かれやすく、その状況が常態化していると考えられる。
・製作委員会や制作会社とフリーランスとの取引関係においては、フリーランス側の交渉力が基本的には弱いと評価された。
→ 一方で、アニメ業界全体が慢性的な人手不足にあることを背景に、指名を受けるような実力あるフリーランスについては一定の交渉力を持つ場合もあることから、フリーランスの置かれた状況は一様ではないことが示された。
・制作委託費については、元請制作会社の一部から「以前より交渉できるようになってきた」との声があることが示された。
→ しかし実際には、製作委員会から提示された金額を前提とした形式的な見積にとどまるケースが多く、制作期間の長期化、クオリティ要求の高度化、物価上昇といった環境変化による制作コストや固定費の上昇を、十分に反映できていない実態が明らかになった。
【報酬・著作権について】
・リクープの完了、すなわち製作委員会における出資金の100%回収が、必ずしも各構成事業者にとっての損益分岐点と一致しないことが示された。
→ 出資の回収状況と、各構成事業者の収益構造との間に乖離が生じている可能性が指摘されている。
・制作印税については、制作会社が希望し続けても設定に至らないケースが多いことが示された。
→ 一方で、成功報酬という形であれば、一定の理解が得られる場合があることも明らかになった。
・最低報酬補償と制作印税を組み合わせるなど、案件の特性に応じた柔軟な報酬設計の可能性が示された。
→ 発注時点で代金額の不確実性が高い案件もあることから、取引ごとの事情に応じた報酬の在り方が検討され得ることが示唆されている。
・「著作権の交渉は行わないという業界の不文律が存在する」との認識が複数示され、実際に約40%の制作会社が「交渉できなかった」「交渉の場自体がなかった」と回答した。
→ 取引適正化法の施行後は、著作権が制作会社に帰属する場合において、その譲渡対価を含む制作委託費について、協議に応じない一方的な代金決定が法的に問題となり得ることが明確にされた。
【動画配信事業者との取引について】
・動画配信事業者との取引においては、制作委託費の額面が高いとの評価があることが示された。
→ しかし、買い切り型契約が主流であるため、ヒットによる長期的な収益の恩恵が制作会社に及びにくいという構造的な課題が指摘されている。
・特に外資系動画配信事業者において、視聴回数等の情報が開示されないとの声が複数示された。
→ 今後の適正な対価設定のためには、契約形態を問わず、必要な範囲での情報開示と実質的な協議が不可欠であると考えられる。
・アニメ制作の現場を担う下請制作会社については、作画を担当する事業者の約50%が赤字と回答した。
→ 制作委託費の上昇率を上回る労務費や制作コストの増加が、経営を圧迫している実態が示されている。

