「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)」に関する意見

一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)は、日本のアニメ業界のクリエイターや、スタジオ、アニメファン有志によって構成された業界団体です。今般公開された「プリンシプル・コード」について、アニメの業界団体の立場から意見を提出いたします。

1.総論

(1)基本的な考え方

「AI事業者が行うべき透明性の確保や知的財産権保護のための措置の原則を定めるプリンシプル・コード」の作成について、NAFCAとして大枠で賛成いたします。これまで、生成AIを巡る議論においては、著作権者やクリエイターの意見が十分に反映されない状況が長く続いてきました。そのような中で、本コード案は、知的財産と未来のクリエイターを守り育てるための重要な第一歩であると認識しています。

本コード案は、今後世界的にも大きな影響を与えると考えられるEUのAI Actに照らしても内容に齟齬がなく、日本が国際的な議論から置き去りにされる可能性を低減する観点からも、重要な意義を有するものと考えます。

特に、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の枠組みにおいて、単に説明を行えば足りるとされる場合と、エクスプレインが成立しない場合とを明確に示している点は、事業者の実務においても権利者の理解においても分かりやすく、強く支持いたします。

また、本プリンシプル・コードの意義は、単なる情報開示の指針にとどまらず、権利者が自らの著作物等の利用状況を把握し、権利侵害の有無を確認した上で、申出や交渉、救済に着手するための実務的な「入口」を整備した点にあると考えます。

権利者にとって、学習や生成の実態が不透明な状況では、権利侵害が疑われる場合であっても、具体的な行動に移すことは極めて困難であり、透明性の確保は権利行使の前提条件です。

もっとも、透明性が形式的に確保されているだけでは十分とは言えず、開示内容が抽象的であったり、事業者ごとに粒度や形式が大きく異なる場合には、実務上活用することが難しくなります。

そのため、本コードにおいては、単なる情報開示にとどまらず、権利者や利用者が実際に判断や行動に結び付けることができる「権利行使に資する透明性」が確保されることが必要であると考えます。

さらに、本プリンシプル・コードは、権利者と生成AI事業者のいずれか一方に過度な負担を課すことを目的とするものではなく、両者の間における予見可能性を高め、相互の信頼関係を形成するための基盤となる文書として位置付けられるべきです。

透明性や対応方針が明確になることは、権利者にとっての安心感につながるだけでなく、生成AI事業者にとっても説明責任を果たしやすくし、健全な事業活動を行う上での基盤となるはずです。

コンテンツ産業は、我が国において雇用や輸出、国際的なブランド価値の創出に寄与する基幹産業の一つであり、本プリンシプル・コードの運用の在り方は、今後の産業規模の拡大や海外市場での評価にも影響を与え得ると考えます。

なお、本プリンシプル・コードは、生成AIを巡る技術や社会状況が急速に変化する中で策定されたものであるため、現時点では完成形というよりも、今後の運用や見直しを通じて発展させていくことを前提とした第一歩として位置付けられるべきものと考えます。

以下に述べる意見は、必ずしも直ちに全ての措置の実施を求めるものではありませんが、今後の検討や改訂に向けて、権利者の立場から留意すべき論点を提示するために記載するものです。

(2)この文書の適用を受ける対象

プリンシプル・コード案の下記の文章について、

<なお、日本国内に本店又は主たる事務所を有しない事業者であっても、システムやサービスが日本に向けて提供されている場合(日本国民が利用できる場合を含むがこれに限られない。)には、この文書の適用を受けるものとする。>

以下のとおり改定することを要望します。

<日本国内に本店又は主たる事務所を有しない事業者であっても、当該事業者が提供するシステム又はサービスが日本国内の者に利用可能であり、かつ当該提供が日本市場を対象として行われていると認められる場合には、本書の適用を受けるものとする。
この『日本市場を対象として行われている』とは、例えば、日本語による表示、日本円による決済、日本国内向けの広告又は勧誘、日本国内向けの配信設定その他これらに類する事情が認められる場合をいう。
また、該当する事業者は、本書に基づく連絡及び通知を受領し、これに対応するための連絡先(必要に応じて日本国内の代理人)を定め、これを明示しなければならない。>

なぜなら、「日本に向けて提供されている場合」等の表現が抽象的であり、制度の対象となる事業者の範囲や判断基準が必ずしも明確であるとは言い難いと考えるからです。

このことにより、事業者側及び行政側の双方において解釈の不確実性が生じ、結果として制度の実効性や事業者の予見可能性を損なうおそれがあるのではないでしょうか。

また、国際的には、欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)をはじめとして、事業者の所在地にかかわらず、当該市場又は利用者を対象として提供されるサービスについて、域外事業者に対しても一定の義務を課す考え方が広く採用されています。

我が国においても、日本市場を対象として事業活動を行い、外国人を含む日本国内の者から経済的利益を得ている事業者については、本プリンシプル・コード案にもある通り拠点の所在のみを理由として制度の適用対象外とすることなく、適切に制度の射程に含めるための明確な整理を行うことが合理的であると考えます。

したがって、「日本市場を対象として行われている」か否かの判断に当たり、日本語表示、日本円決済、日本国内向けの広告又は勧誘、配信設定等の客観的事情を例示的に明示するとともに、該当する事業者に対し、本書に基づく連絡及び通知を確実に行うための連絡先(必要に応じて日本国内の代理人)の明示を求めます。

2.(1)原則1

(1)透明性確保のための措置 イ 学習データ関係

学習および検証等に用いられたデータ並びにクローラについての情報を開示すると規定したことを歓迎します。これまで権利者は、自身の作品が学習に用いられているか否かを把握できず、結果として権利行使に着手できない局面が多く存在してきました。

一般社団法人日本フリーランスリーグ(以下「FLJ」)がクリエイターを対象に2025年9月に実施した生成AIに関するアンケート(*1)では、回答者の93%が、透明性が重要であると回答しており、権利者がAI学習データの透明性を強く求めていることは明らかです。

また、一般使用者の立場から見ても、海賊版等違法なデータや倫理的に問題のあるデータが使用されているAIサービスを利用することへの忌避感は強く、その観点からも、学習データに関する情報を開示することは、サービスへの信頼確保のために極めて重要であると考えます。

(2)知的財産権保護のための措置

■2ポツ目 

「データの活用に関しては、他者の知的財産権を侵害しないこと」との記載について、現行の著作権法においては、作品を享受する目的が存在しない限り、機械学習に用いるために著作権者の許諾は不要とされています。しかし現実には、そのように用いられたデータを基に提供されるAIサービスであっても、著作権を侵害していると考えられる出力が容易に可能となっています。

また、仮に個々の出力が著作権侵害に該当しない場合であっても、瞬時に大量の絵、映像、音声等を生成できることにより、既存のクリエイターに対して極めて大きな競争上の脅威を与えています。

このような状況は、米国連邦著作権局が指摘する「市場の希釈化」(*2)をもたらし、著作権者の正当な利益を阻害するおそれがあるとされています。同局では、生成AIのための機械学習はフェアユースに該当しないとの考えが示されており、これに沿った裁判所の判断(サマリージャッジメント) (*3)も既に示されています。

さらに、アメリカやヨーロッパの複数のクリエイター団体(SAG-AFTRA、FIA、EWC等(*4))においても、透明性の確保と併せて権利者による同意の必要性が強く主張されています。

国内においても、FLJによる同アンケートでは、望ましい同意の仕組みを問う設問において、「原則禁止」を含め、88%がオプトイン等の強い同意管理を支持しています。

NAFCAとしては、生成AIによる市場への影響を踏まえ、商用利用を目的とした生成AIの学習のための著作権利用については、全てオプトインを原則とするべきであると考えます。その上で、本プリンシプル・コードにおいても、少なくとも、一般的に納得しうる難易度の方法によるオプトアウトの権利と手段を確立し、その内容および運用状況を明示することを求めるべきであると考えます。

これは権利者のみに利益をもたらすものではありません。全ての学習データをオプトインにより取得しているAI事業者がその旨を明記し、内閣府等の第三者機関による確認・担保がなされることで、クリーンなデータセットによるAIサービスであることが可視化されれば、それ自体が事業者にとって重要な競争上のインセンティブとなり、健全なAI関連事業の発展にも資するものと考えます。

そのため、本プリンシプル・コードにも、「商用を目的とした生成AIサービスのための学習・検証等に使用する際には、権利者への許諾を求めること(いわゆるオプトイン)を原則とし、事業者はその方法を開示すること。また、既に学習データに含まれている著作物等を除外(いわゆるオプトアウト)するための技術的手段を確立し、その内容を開示すること」等の記載を追記することを求めます。

また、「権利者から許諾があった場合には、双方協議の上で相応の報酬を規定すること」も重要です。ただし、FLJの同アンケートによれば、報酬や補償の在り方について「どのようなモデルでも共感できない」と回答した権利者が約3割存在しており、金銭的補償があれば作品の利用を許容するという単純な関係にはない点にも十分留意していただきたいと考えます。

■5ポツ目

「海賊版サイト等へのクロール回避に取り組むこと」との方針を歓迎します。ただし、「回避に取り組む」という表現では、実際に回避がなされているか否かが不明確となるおそれがあります。

このため、「海賊版サイト等へのクロールを厳に慎むこと」といった表現に改め、海賊版サイト等へのクロールの有無を開示させることが必要であると考えます。権利者の立場からすれば、海賊版サイトのクロールを行わないことは当然の前提であり、さらに一歩踏み込んで、「ホワイトリストに基づく学習」を原則とすることを求めます(前述の2ポツ目参照)。

■6ポツ目

「知的財産権を侵害する生成物の生成を防止する技術的措置を」との記載について、生成AIによる被害は知的財産権の侵害に限られるものではありません。実在の人物の肖像や声等を用いたいわゆるディープフェイクは、詐欺や虚偽情報の流布につながる重大な問題です。

アニメ分野においても、声優等の「声」が無断で再現されることによる問題が顕在化しています。協同組合日本俳優連合(以下「日俳連」)によれば、2023〜24年の3ヶ月間で約300件の被害が確認されています(*5)。このため、「他者の知的財産権」に加え、「肖像権、パブリシティ権その他人格的利益を侵害するおそれのある生成物」も対象に含めて記載することが望ましいと考えます。

■7ポツ目

「電子透かし、C2PA等を可能な限り実装すること」とし、その対応状況を開示するとしている点について、トレーサビリティの確保は極めて重要であり、権利者にとっても、トレーサビリティが確保されていなければ権利行使に着手することは困難です。

トレーサビリティの確保は、権利行使の出発点をなすものであることから、当該事項は「可能な限り」とするのではなく、

「電子透かし、C2PAその他のコンテンツの出所や来歴を証明する技術的措置を講じていること」

と修正し、その実施の有無を明確に開示させるべきであると考えます。

また、電子透かし等の措置に加え、生成AIによる生成物については、その旨を明示するラベリングも必要です。FLJも同アンケートに基づく提言において同様の要請を行っていますが、ディープフェイク被害の防止や、人間の権利者、ひいては未来のクリエイターを守る観点からも、人間の創作物かAIによる生成物かを明示することは極めて重要です。アニメ分野においても、「生成AIを用いた作品ではないか」との疑念から炎上に至る事例が散見されることから、本事項に

「〜技術的措置を講じていること。また、AIを用いて生成したものについては、その旨が分かる表示を付すこと」

との記載を追加することを求めます。

■9ポツ目

「適切な窓口を整備すること」を歓迎します。ただし、対応記録を保存するだけでは十分とは言えず、個別事案の詳細に立ち入らない範囲で、どのような検証手法・判断基準・是正措置を用いて対応しているかといった運用の概要を公表することが重要であると考えます。

例えば、2025年11月に日俳連がAI音声サービス「にじボイス」の運営者であるDMMグループに対し、実在の声優の声に酷似しているとして取り下げを申請した事例では、事業者側は取り下げには応じたものの「権利侵害はない」との姿勢を示しました(*6)。しかし、音声技術者が試験的に行ったAIを活用した音声類似度判定によると90%以上の合致率を示したモデルも複数存在し、このように客観的根拠を示さずに自らの正当性を主張する対応は、権利者の名誉を毀損するおそれがあります。

そのため、(1)の透明性確保と併せて、権利侵害の申出に対し、どのような技術的手段により検証を行い、どのような判断・対応を行ったのかについて、概要レベルで開示することを求めます。

もっとも、これらの問い合わせが事業者に過度な負担とならないよう、原則2および3と同様に、手数料や回数制限等の措置を、権利行使を不当に萎縮させない範囲で設けることは許容されると考えます。

(4)その他の事項

本プリンシプル・コードは透明性に重点を置いた内容となっており、生成AIの利用の在り方については十分な議論がなされていませんが、生成AIは倫理とも密接に関係しています。アニメーションや創作に関する欧州の労働組合は、共同声明の中で生成AIについて「文化を均質化させるおそれがある」(*7)と指摘しています。

現在、日本のコンテンツ、とりわけアニメ産業は海外売上が拡大を続けており、我が国の基幹産業の一つとして認識されています。しかし、生成AIの安易な活用により文化が均質化すれば、日本のコンテンツが有してきた独自性や優位性が失われ、輸出産業としての競争力を損なうおそれがあります。実際に、日本国内でも生成AIを使用したコンテンツは度々「炎上」状態となりますが、Reddit等海外SNSにおいても、AIを用いたアニメコンテンツに対し、「魂がない」「独創性に欠ける」「技術的海賊行為」といった批判が目立ちます。

今後さらに海外展開を進めていく中で、日本の文化として既に認識されているアニメや漫画の強みを損ない、批判を受けることが想定される形で生成AIを利用することは、我が国コンテンツ産業の成長や海外売上の拡大という政策目標にも逆行するおそれがあります。

したがって、本プリンシプル・コードにも、「AIサービスを展開するに当たっては、日本特有の文化や表現の多様性を尊重し、コンテンツ産業の競争力や強みを阻害しないよう留意する」といった趣旨の記載を求めます。

*1 一般社団法人 日本フリーランスリーグ
https://drive.google.com/file/d/1Aw3nn12mPNXy4Ex9403V6MewvRjW8gHr/view

*2 https://www.copyright.gov/ai/Copyright-and-Artificial-Intelligence-Part-3-Generative-AI-Training-Report-Pre-Publication-Version.pdf

*3 Meta Platforms社『Llama』に関するカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所による判断 解説参考:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b136f4e2c06b8e6a9d3367e2821b7d181143ac0b

*4 https://www.sagaftra.org/sites/default/files/sa_documents/DigitalReplicas.pdf

https://fia-actors.com/2025/03/10/fia-policy-and-practical-guide-with-respect-to-artificial-intelligence

https://europeanwriterscouncil.eu/ai-tool-kit2024

*5 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/culture/20250611-OYT1T50022/

*6 『にじボイス』 https://nijivoice.com/news

*7 https://fia-actors.com/wp-content/uploads/2025/06/GenAI_Full_Statement_EN.pdf