パブリックコメント「「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見」

内閣府 知的財産戦略推進事務局より募集がありました「「知的財産推進計画2024」の策定に向けた意見募集」に対して、NAFCAより提出したパブリックコメントを公開します。

目次

C.急速に発展する生成 AI 時代における知財の在り方
(C1) 生成AIと著作権
D.知財・無形資産の投資・活用促進メカニズムの強化
E.標準の戦略的活用の推進
F.デジタル社会の実現に向けたデータ流通・利活用環境の整備
G.デジタル時代のコンテンツ戦略
(G1) コンテンツ産業の構造転換・競争力強化とクリエイター支援
(G2) クリエイター主導の促進とクリエイターへの適切な対価還元
(G3) メタバース・NFT、生成 AI など新技術の潮流への対応
(G4) コンテンツ創作の好循環を支える著作権制度・政策の改革
(G5) デジタルアーカイブ社会の実現
H.中小企業/地方(地域)/農林水産業分野の知財活用強化
(H2) 中小企業の知財取引の適正化
I.知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化
(I3) 知財を創造・活用する人材の育成
J.クールジャパン戦略の本格稼働と進化
(J1) クールジャパン戦略の本格稼働・進化のための3つの手法
(J2) クールジャパン戦略の推進に関する関係省庁の取組

C.急速に発展する生成 AI 時代における知財の在り方

(C1) 生成AIと著作権

世界最大のアニメ生産国である日本は、アニメ作品の絵や映像、声優の声などが無断で生成AIの学習元にされることで、経済的にも風評などの面でも多大なダメージを受ける。

著作権30条の4の目指した理念は、結果的に、あるべき国の知財戦略と逆の方向を向いているのではないか。
当法人の著作権と生成AIに関する意見については、本項末尾にリンクした2つのパブリックコメントに詳しく記し提出した。

下記5点について、あらためて強く留意いただきたい。
(1)声優等の声が素材として扱われ、特定のキャラクターや声優等を想起させるボイスチェンジャー等として使用、あるいは販売されている事例が散見される。これは著作権やパブリシティ権の侵害にとどまらず、名誉毀損にもなり得る由々しき事態である。
(2)生成AIの出現によりキャラクターの風貌や声が本物と酷似した模倣品を瞬時に大量に生成することができ、またそれらにどのようなことをさせることも、あるいは言わせることも可能である。
最高裁判決では「物のパブリシティ権」は否定されているものの、生成AIが隆盛している現代において、再度「キャラクター」のパブリシティ権について考えることが必要ではないか。
(3)従来の著作権法では画風や作風等は保護対象とはされないものの、集中的に追加学習させることにより特定の画風や作風等を再現し、模造品を短期間で多数生成する行為等に対しては、従来の著作権法の範囲に止まらない新たな「生成AI法」とも言える議論を開始する必要がある。
(4)生成AIの利用有無に関わらず著作権に抵触する事例が散見される昨今、著作権についての幅広く手厚い啓発が急務である。
(5)上記の事項を検討する政府の会議等には著作権者や実演家を招聘し、法律家や開発者と同列で意見聴取を行った上、議論にも参加させるべきである。

●パブリックコメント「AI 時代における知的財産権」https://nafca.jp/public-comment01/
●パブリックコメント「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見」
https://nafca.jp/public-comment04/

D.知財・無形資産の投資・活用促進メカニズムの強化

近年、「アニメは儲かる」との投機的な目的から、非常に乱暴な形でIPやアニメ関連の歴史的資料を取得する事例が増えており、業界団体として強い危機感を持っている。

一方で、法的な理解が浅いままに作品の権利(IP)を安易に売り出してしまうケースも散見されている。

また、それとは逆に、正当な手続きを経てIPを取得しても原作者などの意向でIPを自由に使えないケースも存在する。

知財への投資活性化にあたっては、このような混乱を事前に防げるよう、IPの移動や不当な取引に関する明快なガイドラインを、業界に広くヒアリングした上で国が定めるべきであると考える。

E.標準の戦略的活用の推進

世界を代表するアニメ輸出国である日本においても、アニメ制作に用いる機材・ソフトウェアの多くは外国メーカーのものに依存している状況である。

現在、アニメーターが使用するデジタル作画用ソフトについては、統一規格が存在しない。

PhotoshopやIllustratorのような統一規格が存在せず、クリエイターそれぞれが異なるソフトを使用していることが、アニメ制作現場の生産性を著しく下げている。
今後、アニメーション市場は世界的に大きく伸びていくことが予測される。そのなかでわが国が確固たる地位を占めるためにも、行政がアニメ制作現場の現状をよく理解し、国産の世界統一規格を持ったソフトの開発を強力に後押しすべきである。

F.デジタル社会の実現に向けたデータ流通・利活用環境の整備

日本を代表するコンテンツであるアニメのデジタルアーカイブは急務である。

アニメ分野では、2000年代初頭まで使われていたセル画が大量に破棄されてしまった。

世界的に見ても、手書きで一枚一枚書かれた日本のセル画は貴重な文化財であるが、管理する場所や管理に適した温度・湿度管理等の難題があり、僅かに残されたセル画も国内で保護できず、海外への流出も進んでいる。
今後デジタルアーカイブを進めるためにも、大本となるセル画自体を保護する必要がある。

また、アニメの制作技術を承継する観点でも、様々な作品に触れて、第一線で活躍してきたクリエイターの技術から学ぶことに大きな意味がある。

アーカイブ事業のためには、専門のアーキビストの育成も必要だ。
デジタルアーカイブすべき内容には、完成した作品に加えて、中間素材である原画や動画などデジタル・アナログ双方での制作素材や資料の数々も含まれる。
原画や動画は、複数のクリエイターが1つのカットを仕上げていくという特性から、権利処理すべき対象や、利害関係者が多くいるため、アーカイブがなかなか進まないという現状にも留意いただきたい。
当法人は、アニメという知的財産の有効な利活用に向けて、データベースの構築を促進することは国全体の利益に資すると確信する。
国はアニメのデジタルアーカイブ化に予算措置を講じるべきである。

G.デジタル時代のコンテンツ戦略

(G1) コンテンツ産業の構造転換・競争力強化とクリエイター支援

日本のアニメを輸出産業としてみた時、その伸び率は過去10年で約5倍となり、2023年には海外輸出だけで1.5兆円にものぼる一大産業となっている。
国の知財戦略に掲げられた「世界で通用する普遍的なテーマに則した価値提供」を考える上では、これらの成長の要因を詳しく調査・分析する必要がある。
産業規模が大きく伸びていく一方、その陰で制作現場の経済体制は自転車操業が常態化しており、抜本的な構造転換が必須である。すなわち、制作現場に IP の一部権利を譲渡するなど適切な対価還元を行うことで、クリエイター支援、育成に繋がる道筋を作るべきである。

国の「知財戦略2023」には、「クリエイターの力こそが勝負の決め手」と明記されている。デジタル時代のアニメのコンテンツ戦略も、国の知財戦略に則り、国際競争に勝てる体制を整備するべきである。
制作・製作の現場で広くIPを活用するため、IP活用に特化した人材の育成も急務である。海外を含む各地での実務・法務研修を行政が後押しすることは国益に資すると考える。

また、海外の日本アニメへの反応を、日本国内の現場クリエイターに実感させることは、より強いインスピレーションを促すことに繋がる。国はアニメのクリエイターが海外のファンと交流する機会を提供するため予算措置を講じるべきである。
その際に留意すべき点として、既存作品のIPホルダーへの許諾が非常に困難な現実がある。

海外イベントにアニメーター等が招聘された際に、IPホルダーの許可が降りないために、現地でキャラクターのイラストを描くことができないという事例が頻発している。これらは日本のコンテンツを世界に広げるという文化戦略に真っ向から反する事態であるため、国の知財戦略としてガイドラインの整備を行うべきである。

最後に、アニメ制作現場のDXに関しては相当程度まで進んでいるとの認識である。
しかし一方、特にアニメーターとしての能力を伸ばす段階ではアナログでの修練が必須であり、フルデジタルでキャリアを始めた場合は伸び率が悪いなどの見識が業界内で多数派である。そのため、DX一辺倒の政策ではなく、現場のリアルな声を反映した現実的で複合的な政策立案が必要であると考える。

(G2) クリエイター主導の促進とクリエイターへの適切な対価還元

アニメ産業の市場規模はおよそ3兆円と言われるが、国内でアニメを制作する企業の市場規模は2022年度で2703億円と、関連市場の1/10以下である。
現在は製作委員会がアニメ作品のIPを占有しているため、作品が大ヒットしても、制作現場に利益が還元される仕組みがない。
IPの配分についての再検討が必要である。
また、クリエイター個人の収入に、作品のヒットやグッズの販売との相関関係が一切ない慣習は改めるべきだ。

(G3) メタバース・NFT、生成 AI など新技術の潮流への対応

NFTについては、既存のアニメの絵などを、権利者に無断でNFTとして商品化して販売する事例などがあり、当法人に相談・通報が寄せられている。
また、メタバース空間にあっては、「生成AIを使用して作られた「声優の声になれるボイスチェンンジャー」が使用される、既存のキャラクターのアバターを無断で複製して使用されるなど、多くの著作権侵害が認められているとの通報が当法人にも寄せられている。

このような不正の蔓延る状況は、声優やアニメ産業のメタバース進出にも悪影響である。
インターネット初期のネット空間と同様に、これらを個別に権利者が訴えていくことは極めて困難であり、新技術の事業者への行政指導を含む対策が検討されるべきだ。また、一般ユーザーへの啓発活動も徹底して増やすべきだ。

(G4) コンテンツ創作の好循環を支える著作権制度・政策の改革

アニメの制作現場をはじめ、コンテンツ制作は大規模のチームによって行われることが多い。その作業工程は、建築やSEの現場とも似ている。このように集団で制作した作品について、末端のクリエイター個々人が財産権や人格権としての著作権を主張することは現実的ではないとされてきた。

しかし現在のように安価で「買い取り」をする慣例を継続することは、国の知財戦略推進にとって大きな問題であると考える。
「買い取り」にする場合には相応の対価を支払う、あるいは一定の比率でのロイヤリティを持たせるなど、クリエイター側に立った改善が必要である。

また、作品づくりに参加したクリエイターらが、自らのポートフォリオにそれらを生かすことは制限されるべきではない。
現状では著作権が買い取られてしまった結果、自分の描いた絵をポートフォリオで紹介するためにも権利者の許諾が必要な状態になっている。しかしクリエイターがそのような当然の権利を希望しても、契約段階でこの希望は拒否されることがほとんどである。これは改善されるべきだ。
制作現場でのミスマッチをなくすためにも、これらクリエイターが実際に手を動かした中間成果物はポートフォリオとして活用されることが望ましい。アニメ産業におけるポートフォリオの適切な運用は、国の知財戦略にとっても重要である。

国はデジタル時代の著作権権利処理について「新たな分野横断権利情報検索システム」を構築するとのことだが、全ての著作物をこのシステムで適正に管理するのは難しいとも思える。
一言で「著作物」と言ってもその著作権者が多岐に渡ることは釈迦に説法ではあるが、管理体制の構築のため、多方面へのヒアリングなど丁寧な構築を要望したい。

(G5) デジタルアーカイブ社会の実現

今後推進されるアニメのデジタルアーカイブについては、アニメクリエイターや専門学生、美大生など、アニメ業界での活躍を願う人々にとっては格好の学びの対象である。
そのため、アニメのデジタルアーカイブを学習したいと希望するこれらの者に対しては、積極的に開かれるべきである。
技術の承継は、国全体の利益に沿う。

H.中小企業/地方(地域)/農林水産業分野の知財活用強化

(H2) 中小企業の知財取引の適正化

アニメにおける製作委員会制度において、キャッシュを持たないアニメ制作スタジオなどは、事実上参加することができない状況が続いている。
アニメ制作現場における知財取引の適正化のためにも、アニメスタジオやクリエイターの「みなし出資」が積極的に認められるべきである。
また、製作委員会入りを希望する法人を不当に排除することがあってはならず、そのような行為が見られた場合には、行政が厳罰をもってのぞむべきである。

I.知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化

(I3) 知財を創造・活用する人材の育成

アニメの制作現場では人員不足、人員のスキル不足が深刻な問題となっている。
知財戦略の側面からも、ただちに予算措置を講じるべきである。詳細は後述のクールジャパンへの意見としてパブリックコメントに記載しているのでご確認いただきたい。
一度途絶えた技術は、二度と戻らないことを強く念頭に置いて欲しい。

J.クールジャパン戦略の本格稼働と進化

(J1) クールジャパン戦略の本格稼働・進化のための3つの手法

1 常に変化・進化する CJ の発掘
2 「地域」が主役の CJ
3 「人」が主役の CJ(繋がりの構築)

1については、何をおいても人材育成である。
2については、クリエイターが地域の伝承や伝統芸能をはじめとした地域の持つコンテン
ツにアクセスしやすい環境整備が急務である。デジタルアーカイブだけでなく、クリエイターが実際に現物を見る機会を増やすことが、知財の利活用として好循環につながる。
3についても、何をおいても人材育成である。
知財の前に人材があることを、国は明確なメッセージとして打ち出すべきである。
なお、当法人のクールジャパン戦略についての意見については以下のパブリックコメントに詳しく記し提出した。

●パブリックコメント「新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見」
https://nafca.jp/public-comment03/

(J2) クールジャパン戦略の推進に関する関係省庁の取組

徹底して EBPM(エビデンス・ベース・ポリシー・メイキング)を推進するべきだ。

クールジャパン戦略がこれまで予算をつけて支援してきた全プロジェクトおよびその成果の可視化と、第三者委員会による予算効果検証を、知財戦略の視点からも実施するべきだ。

今後、サステナブルの視点はアニメの制作現場にも必ずやってくる。また、クールジャパンが国際的に注目を集めているからこそ、そこで働く人の人権も世界から注目されている。

現状ではアニメの制作現場はサステナブルとは到底言えず、このまま放置すれば人権デュー・ディリジェンスを重視するプラットフォームから排除される可能性もあり得る。
制作現場の状況改善は急務である。